無線ICタグを利用した対話型授業支援システムを試験的に運用している産能大学は先ごろ、同システムの新たな活用法を考案し、実際の授業に導入した。学生の研究発表の内容を教員だけでなく、ほかの学生にもリアルタイムで評価させ、発表した学生の成績にその結果を反映させようという試みである。授業の質を向上させ、授業に出席している学生の緊張感を高める効果などを期待しているという。

 2005年10月上旬から産能大学が試験的に運用しているシステムは、「湘南キャンパス」(神奈川県伊勢原市)に三つある大教室の一つ(403教室、収容人数:約300人)に導入されている。システムを開発したのは、ICタグシステムベンチャーの「ICブレインズ」である。対象となるのは経営情報学部の授業のうち、同教室を使って授業を行う7科目である。今回の試みは、このうち「基礎ゼミ」(1年生の必修科目)という科目の2005年12月20日の授業で行われた(写真1)。

写真1 湘南キャンパスで2005年12月に行われた研究発表

 授業を受ける学生は約30人であり、非接触ICカード技術「FeliCa」対応チップを内蔵したカード(13.56MHz帯の周波数に対応)を、学生全員に無料で配布している。教室の各席の机上にはICカードのリーダー(ユニット)が設置してあり、学生が着席すると、そのユニットの上にICカードを置く。ユニットには四つのセレクトボタンが付いており、学生がこのボタンを押して教員の質問に答えるといった使い方ができる(詳細は日経RFIDテクノロジ2006年1月号p.6参照)。

 学生の回答は統計処理され、「どの学生がどの答えを選んだか」という結果が、教員用パソコンのディスプレイにリアルタイムで表示される。「教員から学生への一方通行の講義になりがちな大教室の集合型授業のあり方を変えることができる」と考えて導入したものである。

興味をなくしたときにボタンを押す

 こうした対話型授業支援システムをこれまで産能大学は主に、大教室における授業の内容に対する学生の理解度を授業中に教員がリアルタイムで調べるときなどに使っていた。これに対して12月20日に行われたの授業では、学生の研究発表の内容をほかの学生が評価するために活用した。

 基礎ゼミという科目では、履修している約30人の学生が数人のグループに分かれ、グループごとにテーマを決め、半年かけて調査を行う。その後、調査結果を報告書にまとめ、グループ内の学生が分担して発表会で報告するという授業である。発表会の当日である12月20日の授業で、対話型授業支援システムを使用した。

 使い方を具体的にみると、あるグループが発表を行う前に、ほかの学生は自分の机上にあるリーダーのボタン(「A」から「D」の4個)のうち「A」のボタンを押しておく。発表が始まるとその内容を聞きながら、「面白くない」あるいは「興味をなくした」、「内容がつまらない」などと思ったときに、「B」から「C」、「D」とボタンを順に押していく。

 その結果は教員用パソコンのディスプレイに、円グラフの形でリアルタイムに表示される。発表が終わったときに「A」のボタンを押したままの学生の比率が高く、「B」や「C」、「D」のボタンを押した学生の比率が低いほど、発表内容に対する評価が良かったというわけだ。こうした学生の評価結果は教員の評価結果とともに、発表した学生の成績に反映させたい考えである。

 産能大学では現在、経営情報学部の5人の教員が、今回の対話型授業支援システムを自分の授業で利用している。12月20日の授業におけるケースのように同システムは、教員の工夫によって今後も、さまざまな使い方が可能になりそうだ。