先日,メリーチョコレートカムパニーの原邦生社長をお訪ねした。6月14日に最終回を迎えた「原邦生社長の『メリー流IT革命』」の連載終了のお礼を申し上げるためである。

 メリーチョコレートカムパニーは,年商178億円(2005年8月期)の“中堅企業”ではあるが,IT先進企業として「知る人ぞ知る」存在である。最近の事例では,携帯電話の内蔵カメラを使って店頭陳列を撮影。仮説に基づいた店頭陳列を画像データベースに蓄積した上で,その効果をPOS(販売時点情報管理)システムで検証し,「仮説検証」で得られたノウハウを全店舗で共有する仕組みを作り上げている。

 ご挨拶の時,原社長からいくつか興味深いお話を伺うことができた。その1つに,企業規模が違っても経営やIT化に取り組む「基本」には違いがないというお話があった。もちろん,大企業と中堅・中小企業の間には,「人」「組織」などの面でいくつかの違いが存在する。上場/未上場,同族会社かどうかなどで法律上の扱いも異なってくる。しかし,少なくとも年商100億円程度の中堅企業では,システムの企画・構築・運用などの基本において,我々が思い込んでいるほど,大企業との間に大きな違いは存在しないのかも知れない。

 例えば,メジャーリーグと少年野球はまったく違ったもののように見えるが,どちらも「野球」という同じルールに従っている。個々のプレイヤーの能力には違いがあっても,ワンアウト,ランナー1塁の場面で攻撃側の選択に大きな違いがあるわけではない。同じようにSCM(サプライ・チェーン・マネジメント),CRM(顧客管理),SFA(営業支援)などの基本的な考え方が,企業規模で大きく変わってくるわけではない。

 メリーチョコレートカムパニーを例に取ると,同社は自社工場でチョコレートを生産して,全国の百貨店などに構える約160の店舗で販売している。いわゆる製販一体型の企業である。このため,SCMを導入することで「店頭データに基づく販売予測で工場の生産計画を調整する」,「販売予測に基づく生産計画と在庫量を原材料の調達先に公開することで,効率的な仕入れを実現する」といった大きな効果を得ている。企業規模よりも,製販一体型という同社のビジネスモデルが,SCM導入の成否に大きな影響を与えている。

 情報子会社を抱えるような大企業でも,社内に技術的なノウハウを蓄積できずに,ITベンダーとの付き合いに苦労しているところは多い。大企業だからといって,規模に見合うだけの潤沢なIT投資が可能になるわけでもない。「中堅・中小企業のシステム化では…」という苦労話の多くは,大企業にも当てはまるものである。中堅・中小企業と大企業を必要以上に区別したがるのは我々マスコミ,あるいは営業コストや営業チャネルの観点から,両者を異なる市場として扱う必要のあるベンダー側の都合なのかも知れない。