■今回はトラブル交渉編の第2回です。前回は相手を目の前にして「目ヂカラ」で乗り切る方法を紹介しましたが、今回は電話など相手の顔が見えないシチュエーションでの交渉術を解説します。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 前回トラブル交渉においては「目ヂカラ」が大切だと述べた。しかし、トラブル交渉は対面だけではない。電話など相手の顔が見えないシチュエーションもあるのだ。

 電話になると「声」だけの勝負だ。まさに「声ヂカラ」と言っていいだろう。取引先のように相手の顔を知っているケースであっても、声だけになるとうまくニュアンスが伝わらなかったり、誤解を招いたりすることがある。逆に言えば、いかにビジュアルによるコミュニケーションが重要かということでもあるのだが。

 いずれにしても、顔を見ることができなければ声ヂカラだけで勝負するしかない。

 声にも表情がある。私のような仕事は「声」が勝負なので、自分の声の表情にはものすごく気を使っている。

 よく私自身がクレイマーとなってカスタマー・サポートなどに電話することがあるが、コールセンター専門業者は「コトバ」そのものにはとても気を使っているが、声の表情にまで気配りしているようにはあまり感じられない。

 それは無理もないだろう。声の表情をコントロールするのはとても高度なことだからだ。しかし、ちょっとした工夫で声の表情をコントロールすることができる。

「音の高低」「テンポ」「間」が声の表情の3要素

 声の表情は3つの要素で成り立っている。「音の高低」「テンポ」「間」である。

 人間動揺したり、興奮したりすると声が高く、早口になる。
「なんだって!いったいどうしてくれるんだ!」
 こんなときはたいがい高い声で早口だ。

 逆に謝る場合などは高い声でスローなテンポである。よく受話器を持って「大変申し訳ございません・・・」と頭を下げている人がいるが、そういう場合はたいてい高い声でゆっくりしたテンポだ。

 つまり、
 ・興奮したり、怒ったりしたときは「高い声」+「早いテンポ」
 ・謝罪や不利な立場の交渉時は「高い声」+「ゆっくりしたテンポ」
というパターンに無意識的になっているのだ。

 これは必然でもあるのだが、このパターンに少し変化を加えると効果的だ。 トラブル交渉の場合、最初は声を高くする。しかし、テンポは状況に応じて変化させた方がよい。

 激昂している人は自分が早口になっているので、相手のテンポがとてもゆったり感じられ、ときとしてイライラする。

 私なんか常に一定のテンポのカスタマー・サポートの対応を聞くと、「そこはもっと速くしゃべれよ」と、とてもイライラしてくる。

 だから「そうですね」「おっしゃる通りです」などの“相槌系”や「申し訳ございません」などの“感情系”のやり取りはゆっくりと、事務的な情報や相手になんらかの説明をする場合などは逆に少しテンポを上げる、という風に変化をつけた方が良い。

1.5秒の「沈黙」が最強の声ヂカラになる

 トラブル交渉のヤマ場になると今度は「間」がモノを言う。

 電話でのトラブル交渉では相手の感情の変化が見えないので、折り合い地点が読みにくい。しかし、いずれ決着させなければならない。相手が次々と繰り出してくる要求をいい加減終息させて条件交渉を終結させたいときは、「間」をうまく使おう。

 相手の要求に対して、もうこれで終わりにしようとしうとき、1.5秒の沈黙のあと、ゆっくりと、キーを一段落として「分かりました」「~させていただきます」と言う。

 この「間」によってファイナルアンサーとしてのこちらの決意と覚悟を伝え、相手に“引き際”を悟らせるのだ。

 この1.5秒というのは、私自身がいろんな電話交渉で経験した最適な「間」である。 2秒では長すぎるのだ。なんとなく押し切られた感、不本意感が残ってしまう。逆に1秒では軽すぎる。相手に「まだまだ要求できるぞ」というイメージを与えてしまう。

 このように「声の高低」「テンポ」「間」をうまくコントロールすることができれば電話でのトラブル交渉も怖くない。しかし、それは相手が常識的な人間の場合。世の中そんな人間ばかりではない。実際にはなんとも理不尽な人間が多い。次回はそんな理不尽系に対する対応をお話しする。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。