文・吉田英憲(日立総合計画研究所社会システム・イノベーショングループ研究員)

 PLCとは、Power Line Communicationの略で、電力を供給する電力線を伝送路として通信を行うことです。高周波帯(2~30MHz)を利用することで高速通信が可能となります。PLCは、2003年の「e-Japan戦略II」に実用化の検討が盛り込まれたことがきっかけで実用化の機運が高まりました。

 PLCには屋外利用と屋内利用の2つがあります。屋外利用では、電力会社の電力網を活用して屋内まで通信信号を伝送します。一方、屋内利用では、屋内の電力線を用いて各部屋に通信信号を伝送します。

 屋外利用では、既存の電力網を活用するため、光ファイバーなどの新規伝送路の敷設工事が不要になります。実用化されると、光ファイバーやADSLの普及が困難でも電力が供給されている地域であれば、ブローバンド化が可能となります。光ファイバーやADSLに次ぐ、新たなブロードバンドの伝送路として期待されています。

 しかし、電力線は通信を目的として敷設されたものではないため、電力線に通信信号を伝送させた場合、電波が漏えいし短波放送やアマチュア無線などに影響を及ぼす可能性があります。屋外でのPLC利用を実用化しているスペインやドイツでは電力線の地中化率が高く、電波漏えいによる影響が少ないと考えられます。しかし、日本の屋外電力線は主に地上に敷設されており、現在の技術では電力線から漏れた電波の影響がゼロにはなりません。そこで2006年の秋には屋内利用に限り解禁される見通しとなりました。屋内利用としてはアメリカで、すでに実用化されています。

 屋内利用では、インターネットに接続できる環境であれば、パソコンをコンセントにつなぐだけでインターネット接続ができます。さらに、コンセントさえあればネットワークを構築できるため、LANケーブルなどを各部屋に張り巡らせたり、無線LAN設備を導入したりすることが不要になります。PLCによって迅速にかつ安価にLANが構築できるため、庁内LANや校内LANの一層の普及促進につながる可能性があります。特に、日本の校内LANの普及率は他国に比べて低いため、PLCは新しい校内LANの実現手段となることが期待されます。

 また、ホームネットワークシステムの実現も期待されます。IT戦略本部に設置された評価専門調査会の報告書では、緊急通報と見守りサービスは生活者のニーズがあるものの普及が不十分と指摘しています。普及が進まない理由として、ホームネットワークを構築する費用が高い、構築に手間がかかるなどが挙げられます。PLCでは煩雑な配線作業が不要でコンセントにつなぐだけでホームネットワークを構築できるので、緊急通報と見守りサービスの普及が期待できます。PLCは、多くの自治体で課題となっている安心・安全サービスの充実の一助となりそうです。

 また、電力会社やメーカー等で構成される高速電力線通信推進協議会(PLC-J)もPLCを活用したホームネットワークシステムのサービスとして、(1)健康管理、(2)ホームセキュリティサービス、(3)御用聞きサービス、(4)映画・音楽サービス、(5)インターネット電話を想定しています。

 ただし、テーブルタップなどを用いて同一のコンセントに複数の電気機器を接続した状態、いわゆるタコ足配線の状態でPLCを使うと、伝送効率が悪くなってしまうという実験結果もあり、今後の技術改良が期待されます。