先週16日「道州制特区推進法案」が衆議院で継続審議になった。法案成立は秋の臨時国会以降に持ち越されたが、来年4月の施行の可能性はまだ残されている。さらに6月12日には札幌でNPO法人「日本の未来をつくる会」が主催する道州制シンポジウムが開かれた。高橋知事の講演の後、筆者も参加したシンポジウム「美しい国をつくる―森の国・北海州自立への挑戦」が開催された。当日の議論をもとに北海道の地域経営について考えてみたい。

■危機に瀕する北海道--民も官も思い切った方策を

 北海道の現実は厳しい。明治になって人口が増え、これまでは農業、漁業そして観光で562万人(平成17年)の人口を維持してきた。だが昨今は公共事業や各種補助金、自衛隊がもたらす中央からの資金に依存し、やっと現状を維持する。失業率も高く(全国で第5位)、地域経済の自立の方策が見えない。

 知事の講演からも危機感がひしひしと伝わってきた。知事は「自分や道庁が推進する道州制はあくまで地域再生の一手段に過ぎない」と言い切る。道州制への移行をきっかけに道民と企業が地域の危機に目覚めて欲しいというのである。民も官も思い切った方策を採れば次の50年、100年のモデルを作れる可能性がこの北の台地にはある、という趣旨の話だ。まさにそのとおりだろう。いかにして行政依存を脱し、自立への道を歩むか。そのスピードが成否の岐路を決める。

■北海道の可能性--自然、人材、ブランド

 北海道の再生の可能性は大きい。

 第一に広大な台地に広がる豊かな自然としがらみにとらわれない自由な風土だ。北海道は面積では国土の22%を占めるが人口密度は全国最低だ。最近はこれに北欧的な欧風文化や垢抜けたセンスも加わる。観光地としての魅力はもとより、例えばハイテク産業が立地すれば、新しいライフスタイルをめざす若い人材が集まりうる。

 可能性の第二は「改革屋」人材が多いことだ。ニセコ町の逢坂前町長(現・衆議院議員)は役場の係長から町長に立候補して下克上で当選。徹底的な情報公開と行政改革を行いニセコ町を全国でも有数の先進自治体にした。そのほか「改革屋」の活躍の事例は枚挙に暇がない。最近では旭山動物園の躍進が有名だが、学生とNPOが作った“YOSAKOIソーラン祭り”にも注目したい。これは札幌で始まり年々人気を集め、今や全国各地に“輸出”されている。さらに帯広市の「北の屋台」。全国から公募した屋台村が観光客の人気を集めるが、その背景には徹底した競争原理や情報公開がある。元気な企業も多い。リゾート開発の加森観光、お菓子の六花亭などが典型だ。北海道には既成の秩序を壊して成功した改革事例が目白押しだ。

 可能性の第三は全国から得る好感度の高さである。例えば都内の物産展。北海道展は沖縄展と並んでダントツの集客力を誇る。行ってみたい観光地の人気調査でも同様だ。これからの時代、ブランドやイメージも実力のうちである。これは例えば筆者の出身の「大阪」とは対照的だ。大阪といえばとかく不透明、ごまかしといったイメージが消えない。こうしたスティグマ(汚名)のない北海道の優位性に注目すべきだ。

■何をすべきか--富裕層向けB2C、外部人材活用、他地域との連携

 シンポジウムでは僭越ながら、三つの助言をした。

(1)富裕層向けB2Cのビジネスモデル構築

 日本でお金を持っているのは個人、特に都会の富裕層だ。彼ら向けにB2C(ビジネス・トゥー・ビジネス)のビジネスモデルを作る。高知県馬路村のゆず産業がヒントだ。「ごっくん馬路村」のブランドで全国にジュースやポン酢などの加工品を出荷し、大成功を収めている。北海道はこれまで農林水産品を素材のまま売ってきた。そのため、めんたいこでも塩昆布でも福岡や大阪に加工やブランドの付加価値を取られてきた。これからは農協・漁協経由で素材を売るだけではだめだ。地元で加工し、地元ならではのブランドを構築する。

(2)外部人材による価値の発掘

 外部人材に食品素材や観光地の価値の発掘をしてもらうべきだ。かつて気仙沼市はイタリア人のシェフを呼んで地元の食材の価値評価をしてもらった。地元にはないレシピも提案してもらい郷土料理の幅を広げた。北海道も外部の人材に素材の価値評価をしてもらうべきだ。観光資源も同様だ。各種調査だと北海道の観光資源の筆頭には景色があがる。だが景色や自然だけでは魅力に欠けるし一度見れば十分だとされがちだ。歴史や開拓以来の欧風文化などの価値も発掘、編集、発信する。小樽や函館だけでなく、小さな町村レベルでも開拓以来の歴史を発掘し、それを発信するべきだ。

(3)北海道以外の地域との連携

 地域の自立は実は他の地域との連携によって支えられる。具体的に各地域・産業が北海道以外のどことどういう風につながるべきかを設計する。例えば首都圏の高校の合宿に照準を当て誘致をする。毎年来てもらい卒業後もバーチャル町民になってもらい、産直農産物を買ってもらう。こうした一見ささやかなB2Cの努力が口コミによる地域ブランドの構築につながる。また都会の消費者が本当に北海道に何を求めているかがわかってくる。

 今の日本で唯一、地方にお金をもたらしてくれるのは個人だ。政府は1000兆円の債務にあえぐ。企業は海外投資に余念がない。だが個人は1500兆円の資産を持ち、身の回りの食べ物や健康・観光にお金を使ってくれる。彼らを惹きつけるためには都会の個人のニーズ、特に団塊以上の世代のニーズに精通しなければならない。おそらく北海道民も企業もこれまで農協や行政機関に多くを依存しすぎてきた。これからは自らの目と感性で北海道へのニーズを感じ、対応しなければならない。

上山氏写真

上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォーラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』ほか編著書多数。