KDDIの藤本勇治・ケーブル事業推進室長
KDDIの藤本勇治・ケーブル事業推進室長
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 KDDIは3月,ケーブルテレビ(CATV)事業2位のジャパンケーブルネット(JCN)の株式を取得して傘下に収めた。これに伴い同社は,3月15日にCATV事業者との連携を図るための「ケーブル事業推進室」を発足。4月1日から業務を開始した。同室長の藤本勇治氏に,KDDIのCATV事業者との連携戦略について聞いた。(聞き手は白井 良=日経コミュニケーション

−−JCNを買収した狙いは。

 我々がCATV事業に乗り出すという見方をする人もいるようだが,それは誤解だ。我々の狙いは,CATV事業者のネットワークを利用し,その上で固定電話サービス「ケーブルプラス電話」を提供すること。固定通信と携帯電話が融合するFMC(fixed mobile convergence)では,固定電話のシェアを獲得しておく必要があるからだ。

 CATV事業者と業務提携することが目的で,資本を入れること自体は目的ではない。JCNは全国に対して影響力の大きい事業者なので,我々がCATV事業者と一緒にやっていきたいという象徴的な意味もあって資本参加した。関西地区のケーブルウエストや中部地区のひまわりネットワークなど,資本参加せずに業務提携を結んでいるCATV事業者もある。

 CATVと組むのは,NTTが打ち出した「光3000万計画」に対抗するためだ。NTTは,FTTH(fiber to the home)サービスの「Bフレッツ」を利用して,インターネット接続,IP電話サービスの「ひかり電話」,スカイパーフェクTV!の番組を配信する「スカパー!光」の3点セットを提供している。

 これは,我々だけでなくCATV事業者にとっても脅威となりつつある。光ファイバ1本で,電話,インターネット,テレビ放送とあらゆるサービスを囲い込まれかねないからだ。そこで我々は4月1日から,全国のCATV事業者に業務提携できないかアプローチしている。既に約20社と交渉を進めるための守秘義務契約を交わした。早ければ今年度の終わりにも,成果は見えてくるだろう。

 CATV事業者との提携を通じて,ケーブルプラス電話で150万~200万回線を確保したいと考えている。

−−東京電力の光ファイバを使えば,電話,インターネット,テレビ放送をすべてKDDIだけで提供できるのでは。

 地上デジタル放送のIP再送信が認められる2008年以降なら,東京電力の光ファイバがあるエリアは,すべてをKDDIで提供できる。しかしそれ以外の地域には提供できない。全国で光ファイバによるIP放送を提供できる力を持つのはNTTだけだ。そこで,同軸ケーブルによる放送手段を持つCATV事業者と組む。

 もちろん,放送サービスの提供主体がCATV事業者になるため,我々の取り分が減るという面はある。しかし,そもそも我々が放送サービスの提供手段を持たない東電エリア外では仕方のないこと。東電エリア内であっても,傘下のJCNのユーザーが増えて企業価値が高まるなら我々の利益につながる。まずはNTTグループにユーザーを取られないことが重要だ。

 それに我々の営業戦略上,CATV事業者とは争いたくない。CATV事業者は顧客グリップ力がとても強い。地方に行くほど,この傾向は強まる。これをひっくり返すには相当の手間とコスト,営業体制が必要。NTTと戦うのに,この市場でも戦っていては体力が持たない。

−−au携帯電話と組み合わせて,FMCサービスを投入することもあるのか。

 当然考えているし,CATV事業者にも必ずアピールしている。au携帯電話から自宅のケーブルプラス電話への通話料を半額にするサービスは,既に提供している。6月には,ケーブルプラス電話への着信をau携帯電話に通知するサービスも始めた。もっと色々な割引サービスを提供できるし,最終的には携帯電話を自宅の固定電話の子機に使うようなサービスにも発展していくだろう。

 CATV事業者によるFMCの第一歩として,テレビから電話,インターネット,携帯電話に至るまで,家庭の通信・放送をすべてCATV事業者に任せられる営業体制を作ることを提案している。地元のCATV事業者は,家庭のお茶の間に入っていける存在。中高年のユーザーに対して,auの「簡単ケータイ」を設定してから渡すような売り方ができる。

 提携するCATV事業者のほとんど全部から,将来のFMC基盤を作るためにau携帯電話を取り扱いたいという要望がある。そのため,提携CATV事業者の多くに,au携帯電話の取次店にもなってもらっている。

●日経コミュニケーション編集部より CATV事業者との提携について,記事掲載時には「既に約20社と契約を交わした」としておりましたが,「既に約20社と交渉を進めるための守秘義務契約を交わした」に修正させていただきました。また,電話,インターネット,テレビ放送に関する問いの答えとして「東京電力の光ファイバがあるエリアは,すべてをKDDIで提供できる」と表現していましたが,その前に「地上デジタル放送のIP再送信が認められる2008年以降なら」の一文を追加しました。以上,誤解を招く表現があったため追加・修正いたしました。2006.06.22