「将来は電力を買うようにコンピューティング・パワーを買うようになる」---最近,仮想化やグリッド・コンピューティングなどを取り上げる際に,よく耳にするフレーズである。先月,米Hewlett-Packard戦略技術オフィス チーフ・サイエンティスト兼フェローのGreg Astfalk氏にインタビューしたが,その際にもそのような話が出た。

 HPC(High Performance Computing)分野向けにネット経由でスーパーコンピュータ・クラスの演算能力を販売するサービスは,RCS(Remote Computing Service)などの名称で古くから提供されてきた。コンピュータが非常に高価だった時代には,個々の企業が高性能コンピュータをそれぞれ所有することは難しかった。そこで高性能コンピュータを所有する企業が,そのCPUタイムを他のユーザーに「切り売り」することがよく行われていた。ユーザーはCPUを何秒使ったかによって,課金されるのである。

 こうしたコンピューティング・パワーを“従量制”で購入する環境では,プログラムのパフォーマンスがそのままコストに跳ね返る。出来の悪いプログラムは出来の良いプログラムより,多くのCPUタイムを消費する。記者が大学生のときに所属していた研究室では,計算量の多いシミュレーションなどで国立の研究所や海外の大学の計算機をリモートで利用していた。学生が出来の悪いプログラムを何も考えずに走らせていると,翌月100万円単位の請求が来てびっくりすることがある,と教授が話していたのを覚えている。

 そのRCSが最近,「ユーティリティ(=電気やガスのような公共サービス)・コンピューティング」という名称で改めて注目を集めている。その背景には,Greg Astfalk氏のインタビューでも触れているように,グリッド・コンピューティングをはじめとする仮想化技術の登場がある。ストレージなども含めて仮想化したリソースをユーザーの要求に従って動的に割り当てられるようになれば,コンピュータを専有するよりも,ユーティリティ・コンピューティングを利用する方がハードウエア・コスト,管理コストの両方で有利な場面が増えてくるだろう。これは,HPC(High Performance Computing)分野だけでなく業務システムにも当てはまる。

 現在,業務システムを開発する際にプログラムのパフォーマンスが重視されることは,保守性などに比べるとはるかに少ない。だが,コンピューティング・パワーに従量制でお金を払うようになれば,このあたりの事情も変わるかもしれない。経営陣からは,使用するソフトウエアがオープンかどうかといった自分にはよく分からない話よりも,「月々いくら」といったコストのほうが重要に見える。パフォーマンスの高い,あるいは軽い(いずれも同じCPUタイムでより多くの処理をこなす)プログラムには,サーバーの消費電力を下げられる,言い換えれば地球に優しいというメリットもある。家電製品で消費電力の低さがセールス・ポイントになるように,プログラムのパフォーマンスが再び重視されるようになるかもしれない。