ネットワーク層プロトコルでパケットを配送する場合,パケットのあて先はそのプロトコルで扱うアドレスが使われます。例えば,IPで運ぶならあて先はIPアドレスで指定します。あて先コンピュータのIPアドレスを調べて,同じLAN内にいるとわかれば,送信元コンピュータからLANを通じて直接,送り届けることになります。

IPアドレスからあて先の物理アドレスを探す

 しかし,パケットをあて先のコンピュータに実際に届けるのは,ネットワーク層より下位にある物理層やデータリンク層のプロトコルの役割になります。このとき,あて先アドレスとして使われるのは機器の物理アドレスです。イーサネットなら物理アドレスにMAC(マック)アドレスが使われます。

 従って,あるコンピュータが別のコンピュータへIPパケットを送るためには,相手のIPアドレスに対応する物理アドレスを知る必要があります。これをアドレス解決といい,下層レイヤーの違いを吸収するためにネットワーク層プロトコルが持つ機能の一つです。


Pict2.物理アドレスを調べる三つの方法
[画像のクリックで拡大表示]

Pict3.IPでIPパケットを運ぶ
[画像のクリックで拡大表示]

 アドレス解決には大きく三つの方法があります(pict.2[拡大表示])。一つめの方法は,あらかじめアドレスの対応を管理者が表にして,それぞれのコンピュータやルーターに格納しておく方法です。

 二つめの方法はネットワーク層のプロトコルのアドレスから計算によってデータリンク層のアドレスを計算する方法です。この方法はデータリンク層のアドレスを人為的に与えることができたり,あるいはデータリンク層のアドレスからネットワーク層のアドレスが決める場合に使用できます。IPv6とイーサネットの組み合わせではこの方式が使えます。

 最後の方法は,LAN内でメッセージを交換して,ネットワーク層のアドレスとデータリンク層のアドレスの対応付けを知る方法です。どの方法を使うか(あるいは使えるか)はネットワーク層とデータリンク層のプロトコルの組み合わせによって異なります。

 最後の方法の代表が,IPとイーサネットの間のアドレス解決で使われるARP(アープ)(address resolution pro-tocol)です。ARPでは,送信元コンピュータがまず,アドレス解決をしたいIPアドレスを含んだ要求メッセージをブロードキャストします。このメッセージを受け取ったあて先のコンピュータは自分のMACアドレスを送信元へ通知します。送信元コンピュータが応答を受け取ると,あて先コンピュータのMACアドレスがわかります。

ほかのネットワークを通り抜ける

 これまで見てきたように,ネットワーク層プロトコルが持つインターネットワーキングの機能は,データリンク層や物理層の違いを吸収して,異なるネットワークを相互接続します。こうしたネットワーク層プロトコルの機能を応用すると,離れた場所にある同種のネットワークを,中継用ネットワークを介して相互接続するといった用途に使えます。

 こうした技術を「トンネリング」と呼んでいます。同じプロトコルを使っているネットワークの島を,異なるネットワークの海の下をくぐる海底トンネルで連結するようなものだからです。クルマに水中を進む機能を追加しなくても,トンネルをくぐれば出口に到達できます。同じように,トンネリング技術でつながれた両端のネットワークは,トンネルの外部にあるほかのネットワークを意識する必要がありません。

 pict.3[拡大表示]ではインターネット経由でLAN同士を相互接続するインターネットVPN(virtual private network)のしくみを説明しています。インターネットというオープンな通信環境で秘密の通信を行うために,IPパケットをIPパケットで運ぶというトンネリング技術を使っています。

 コンピュータAから送られたIPパケットは,ルーターXによってそのまま別のIPパケットに入れられて,ルーターYへ送られます。ルーターXとルーターYの間ではIPパケットを使って通信しますが,外部の人にはこのパケットの中にコンピュータAからBへの通信パケットが含まれていることはわかりません。

 このように,ネットワーク層のプロトコルは,相互に接続する物理ネットワークの違いを吸収する役割を果たすので,コンピュータはネットワークの構成をまったく意識しないで済みます。ルーターXとYの間でコンピュータAやBが対応していない通信技術が使われていても,同じネットワーク層プロトコルを使っていれば問題なく通信できるのです。


●筆者:水野 忠則(みずの ただのり)氏
静岡大学創造科学技術大学院 大学院長・教授。情報処理学会フェロー,監事。現在の研究分野はモバイル&ユビキタス・コンピューティング,情報ネットワークなど。
●筆者:石原 進(いしはら すすむ)氏
静岡大学創造科学技術大学院助教授。現在の研究分野はモバイル環境のネットワーク・アーキテクチャやアドホック・ネットワークなど。
●イラストレータ:なかがわ みさこ
日経NETWORK誌掲載のイラストを,創刊号以来担当している。ホームページはhttp://creator-m.com/misako/