2006年6月15日,日本ヒューレット・パッカードと富士通が相次いでブレード・サーバー関連製品を発表した。日本HPの発表会場で記者の興味を引いたのは,2006年下半期に出荷を予定するInfiniBandスイッチである。一方,記者は発表会に行けなかったが,同僚の記事を読むと,富士通の発表の目玉は10Gビット・イーサネット(10GbE)スイッチであったらしい。ここで記者はふと思った。InfiniBandと10GbEはどちらが主流になるのだろうか,と。

 「10GbEがInfiniBandを置き換える」というシナリオを描いていたのが富士通である。1年前の2005年4月8日,記者は富士通研究所を訪れる機会があった。富士通研究所は「ALL-IP」化構想を掲げており,InfiniBandなどを用いるサーバー間インターコネクト分野やFibreChannelを用いるSAN(Storage Area Network)分野まで「イーサネットとIPで通信するようになる」(常務取締役の宮澤君夫氏)と展望していた。当時出荷していた10GbE LSIチップの性能は,転送帯域が240Gビット/秒,銅線による伝送距離は25メートル,遅延は450ナノ秒だった。

 外資系L3スイッチ・ベンダーのエクストリームネットワークスもまた,イーサネットが当たり前になるという見解を持っている。同社の井戸直樹氏は2005年8月31日の代表取締役就任所信表明において,複数のサーバー機をクラスタリング接続してCPU処理性能を高めるHPCC(High Performance Computing cluster)を注力マーケットの1つに挙げ,「サーバー間接続用途にはギガビット・イーサネットが使われる」と説明していた。

 単純に性能で比較すると,InfiniBandは10GbEを上回る。イーサネットとは要するにイーサネット・フレーム(MACフレーム)を扱うネットワーク仕様だが,ネットワーク・プロトコルの汎用性の高さ故に,遅延や帯域の面でサーバー間接続専用のInfiniBandと比べて不利となるのだろう。より低遅延の専用ネットワークと,遅延の大きな汎用ネットワークの違い,言い換えれば,性能を追求した専用ネットワークと,コストが安く扱いやすい汎用ネットワークの違いである。

 一方で,InfiniBandが進化するスピードを超えてイーサネットは進化しているようだ。インプレス@ITの報道によると,2006年5月24日にフォーステンネットワークスが発表した10GbEスイッチは,300ナノ秒というInfiniBand並みの低遅延を実現している模様である。このように,10GbEなどのイーサネット技術は,InfiniBandやFibreChannelなどといった専用ネットワーク技術を駆逐する可能性を秘めている。

 InfiniBandとイーサネットを使い分けるベンダーの1社が,クラスタリングによって負荷分散を図れるNAS(Network Attached Storage)製品「Isilon IQ」を出荷する米Isilon Systemsである。Isilon IQでは,NASとNASとをサーバー間接続したクラスタリング環境で,分散型ファイル・システムのソフトウエアを動作させる。サーバー間インターコネクトには,上位版として米Topspin CommunicationsのInfiniBandスイッチと,下位版のギガビット・イーサネット・スイッチの2者を用意している。

 冒頭に挙げた日本HPのブレード製品も同様に,InfiniBandを上位のラインアップと位置付ける。「InfiniBandを必要としない顧客にはイーサネット技術を提案し,高い性能を必要とする顧客にはInfiniBandを提案する。提案の幅を広げる」(日本HP)としている。

 CPUの進化により,コンピュータとネットワークの性能が底上げされた時,すべての通信をイーサネットで実現する時代がやってくるのだろうか。富士通研究所が言うように,イーサネットを前提に,イーサネットとIPを組み合わせた「ALL-IP」の時代が到来するのだろうか。興味は尽きない。