日本や海外の企業でSOAの導入に成功した企業,SOAの導入に苦しんでいる企業にヒヤリングしていて,見えてきたことがある。日本企業が持つ文化や組織形態が,SOAによってもたらされる成功を阻害している面があるのだ。

「プロセスの所有権」の所在が成功の鍵を握る

 日本や海外,SOAといった話題をとりあえず脇に置き,全体最適の視点での業務革新を推進している企業の特徴を考えてみよう。こうした企業は,まずあるべき業務プロセスを設計し,その後に,業務プロセスを実行するための組織のあり方を再設計している。そしてそれらを支えるシステムを設計し,構築・運用している。

 最近,SOAを導入しようとしている企業も,この手順を踏むケースが増え始めている。あるべき業務プロセスを考え,次に組織を再設計。そしてそれらを支えるシステムのアーキテクチャをSOAの考え方に基づき設計し,システムを構築する,といった具合だ。この手順を踏んだ企業の多くは,SOAの導入に成功している。言うなれば,成功を収めた企業は「プロセス先にありき」の考え方を貫いたわけである。

プロセス・オーナーと組織

 一概には言えないが,日本企業の多くは「組織先にありき」の文化を持つ。つまり,まず厳然たる組織体が先にあって,その組織体の中で業務プロセスがどうあるべきかを考える。つまりその業務プロセスについて責任を持つ人(プロセス・オーナー)は,通常、組織体の責任者である。各組織は達成すべきビジネス上の独自の目標を持っている。その目標を達成するために最善を尽くすことが「善」だ。だから,その善を尽くす考え方や行動を必ずしも否定することはできない。

 だが全体最適を目指すうえでは,それが問題になりやすい。例えば経営者が各組織に「企業の全体最適を考えろ」と要求しても,プロセス・オーナーが個別組織にひも付いているため,その組織にとって“明示的なデメリットもしくはメリット”がなければ意味がない。プロセス・オーナーにとっては,組織内で最適なプロセスを実現できていれば「全体最適などウチの組織にとっては関係のない話」だからである。つまり,組織横断的,あるいは全社の視点で見た場合には重複があったり,類似性の高いプロセスが存在していても,そのプロセスを組織同士で共有できずムダばかり,という事態を招きかねない。これでは,俊敏なプロセスを実現できるはずのSOAも,その“潜在能力”の半分も発揮できない。

 本気でSOAのメリットを享受したければ,これまでの「プロセス・オーナーシップ(所有権)」のあり方を変えなければならない。すなわちそれは,企業自らのあり方を変えることと同義である。これは,全体最適を考える際に避けて通れない事項である。個々の組織に閉じた「組織ありき」の最適プロセスを足し合わせても,全体最適にはならない。むしろ,業務とIT両面で“無駄の和”となり,組織間のプロセスに誰も関知しないエアポケットが残ったままとなりかねない。これを避けるには,「プロセスありき」で考えるプロセス中心型の取り組みや発想に切り替えるべく,社内の意識や推進マナーの変革が不可欠である。

(次回---最終回は6月28日に掲載予定です)


飯島 公彦(いいじま きみひこ)/ガートナー ジャパン リサーチ ソフトウェアグループ アプリケーション統合&Webサービス担当 リサーチディレクター


ガートナー ジャパン入社以前は,大手SIベンダーにてメインフレームを含む分散環境におけるシステム構築・管理に関する企画,設計,運用業務に従事。特にアーキテクチャやミドルウエアを利用したインフラストラクチャに関する経験を生かし,アプリケーション・サーバー,ESB(エンタープライズ・サービス・バス),ビジネス・プロセス管理,ポータル,Webサービスといったアプリケーション統合技術に関する調査・分析を実施している。7月19日~20日に開催される「ガートナー SOAサミット 2006」では,コンファレンスのチェアパーソンを務める。
ガートナーは世界75カ所で情報技術(IT)に関するリサーチおよび戦略的分析・コンサルティングを実施している。