Web業界では「Web標準(Web Standards)」を意識した正しい(X)HTML+CSSに基づくサイト制作が当たり前になってきている。Webのポテンシャルを最大限に活かすためのWeb標準について、基礎知識だけでなくトレンド的な観点を交えながら、「なぜWeb標準が普及してきているのか」を考えてみよう。

Web標準とは何か

 Web標準(Web Standards)とは、「Webで標準的に利用される技術の総称」である。では、何をもって「標準的」とするのだろうか。今日の一般的な理解では「国際的な標準化団体が取りまとめている」ということであるが、そのもっとも代表的な団体がW3C(World Wide Web Consortium)である。ほかにもISOやIETF、IANA、ECMA、OASISなどもWeb技術の標準化に大きく関わっているが、W3Cが中心的な役割を果たしているといってよい。



【図1】W3C(World Wide Web Consortium)。Web標準規格の総本山だ[画像のクリックで拡大表示]

 W3CはWebテクノロジーの標準化と推進を目的として活動している団体だ。1994年10月、Webの考案者であるティム・バーナーズ=リー卿を中心とするメンバーによってMIT(米マサチューセッツ工科大学)に設立された。現在ではERCIM(欧州情報処理数学研究コンソーシアム)と慶應義塾大学SFC(Keio-SFC)を加えた三者がホスト組織として共同運営しており、404の会社や機関が会員になっている(2005年6月5日現在)。

 W3CはWebに関する情報の提供、研究開発の促進、新技術のプロトタイプ実装などに取り組んでおり、特にW3Cが策定する仕様書(Specifications)はWeb標準として広く認められている。たとえばHTML、XHTML、CSSなどのWebのフロントエンド制作言語が例としてあげられるが、ほかにもさまざまなXMLアプリケーションがW3Cの仕様に基づいて設計されている。

 社会や経済のグローバル化は、必然的に国際標準化を助長する。国際標準の成立には産業界も巻き込んだ各国の関係者の合意が必要であり、それにより世界的に受け入れられる技術として普及していくことになる。W3Cのさまざまなプロジェクトは各国企業からの資金的、人的な協力を得て進められている点、「草案」(Working Drafts)から「最終草案」(Working Drafts in Last Call)、「勧告候補」(Candidate Recommendations)、「勧告案」(Proposed Recommendations)をへて、正式な「勧告」(Recommendations)に至るまでの仕様策定プロセスが、開発者や利用者の意見をオープンに取り込みながら前進している点が大きな特徴である。

Web標準と(X)HTML+CSS

 最近では、Web標準を意識した正しい(X)HTML+CSSに基づくサイト制作が一般的になりつつある。アクセシビリティやSEO(検索エンジン対策)、メンテナンス性、互換性、相互運用性など、Webのポテンシャルを最大限に活かそうとすると、結局「Web標準」に行き着くことに気づいている人が増えているからだ。

 これまでテーブル(表)を使ってレイアウトすることが多かったWebであるが、CSSレイアウトを全面導入し、テーブルを使わずにレイアウトする(「脱テーブル」する、「フルCSS」にする)サイトが増えてきている。特に、大企業サイトや都道府県サイトなど、さまざまなユーザーが集まる公共性の高いサイトでは、脱テーブル化、フルCSS化がひとつのトレンドとなっている。

 また、Movable TypeなどのブログツールやCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)も、デフォルトからCSSレイアウトに基づいてページを生成するものが多い。ユーザーが特に意識せずに正しい(X)HTML+CSSでページを書き出す意義は決して小さくないはずだ。

 ここで「正しい(X)HTML+CSSとは何か」について補足しよう。「正しい」とは「(W3Cの)仕様に基づいた」という意味であり、文書構造(マークアップ)と視覚表現(スタイルシート)を厳密に分離する、ページ内の構成要素それぞれの意味をきちんと考えてマークアップし、スタイルシートを設計する、ということになる。

 旧来のDTP寄りのWebデザインでは、Macromedia DreamweaverなどのWebオーサリングツールのみを使い、WYSIWYG(What You See Is What You Get)的な発想で、ワイヤーフレームをテーブルで切ってページに落とし込むという「切り貼り」の作業が中心だったといってよい。

 しかし、Webオーサリングツールが書き出すコードはすべてが「正しい」とは限らず、アクセシビリティの確保、SEO効果の向上なども(X)HTML+CSSの正しい理解とコード修正ができなければ困難なことに、多くの人が気付きはじめている。

 また、近年、Webテクノロジーはますます高度化・専門化し、静的なWebサイトだけではなく、インタラクティブなWebサービスやWebアプリケーション開発が求められているところである。Webアプリケーション開発ではプログラム言語による動的なコンテンツ生成や処理、ネゴシエーション、フロントエンドとバックエンドの運用が必要であり、DTP的な作業とは全く異なるテクノロジーやワークフローが求められる。

Web標準とWeb 2.0

 2005年後半からWeb業界だけでなく広くIT業界を席巻しているキーワードに「Web 2.0」というものがある。その名の通り、Web全体をアプリケーションになぞらえ、旧時代のバージョンを1.0、新時代のバージョンを2.0と位置づけたコンセプトだ。

 Web 2.0時代に求められるサイトに生まれ変わるには、最終的にはその企業が「どれだけオープンマインドか」にかかっている。ユーザーからのダイレクトな反応を受け入れる、ユーザーの参加を促すといったマインドこそが、Web 2.0時代のサイトに必要なスタンスである。

 デザインやインターフェイスの点からも、オープンマインドは非常に重要なファクターである。(X)HTML+CSSベースで文書構造と視覚表現を明確に分離したサイトにすることで、アクセシビリティが確保されたり、ユーザーが自分の好みに合わせて環境設定しやすくなるからだ。制作者がデザインを押しつけるのではなく、ユーザーにすべてを任せるということであり、これはひとえにそのサイトの「オープンマインド」にかかっているといってよい。

 また、「Web 2.0的な」テクノロジーとして注目を集めているAJAX(Asynchronous JavaScript + XML)でも、リッチなコンテンツプレゼンテーションを実現するうえで正しい(X)HTML+CSSが欠かせない。旧来のテーブルレイアウトでは、AJAXベースによるコンテンツの自由なポジショニングや生成は不可能であり、自然、CSSレイアウトが採用されるからだ。

 余談ではあるが、脱テーブル化の旗手であり、CSSレイアウトの第一人者であるダグラス・ボーマン(Douglas Bowman)が、GoogleのVisual Design Leadとして入社する(Going to Google)ことをブログで明らかにした。氏は「テーブルは窓から投げ捨てろ(Throwing Tables Out the Window)」という刺激的なエントリーを2004年7月に投稿し、世界中のWeb制作者に大きな影響を与えたことでもよく知られている。

 氏がGoogleに入社するということは、「GoogleがWeb標準に舵を切った」ととらえることができる。Googleはこれまで、レガシーな(古い)マークアップのままであったが、今後、Web標準ベースのコンテンツに注力していくのではと考えられる。


■リンクリスト
W3C(World Wide Web Consortium)
http://www.w3.org/

Douglas Bowman「Going to Google」
http://www.stopdesign.com/log/2006/05/27/going-to-google.html

Douglas Bowman「Throwing Tables Out the Window」
http://www.stopdesign.com/articles/throwing_tables/

邦訳: テーブルは窓から投げ捨てろ
http://www.minutedesign.com/translations/stopdesign/
throwing_tables/


益子貴寛(ましこ たかひろ)
サイバーガーデン代表(http://www.cybergarden.net/)。Webプロデューサー。早稲田大学大学院商学研究科修了。大学院在学中の1999年5月にWebリファレンス&リソース提供サイト「CYBER@GARDEN」を立ち上げる。一般企業に就職後もWebデザイン誌での執筆やW3C仕様書の翻訳活動を続け、2003年5月に独立。Webサイトのプロデュース、Web制作会社のコンサルティング活動などに従事。Webデザイン、Web標準、(X)HTML+CSS、Webディレクション、Webライティング、アクセシビリティ、SEO/SEM、XMLアプリケーションに関する執筆・講義など多数。著書に『Web標準の教科書─XHTMLとCSSで作る“正しい”Webサイト』(秀和システム刊)、『伝わるWeb文章デザイン100の鉄則』(同刊)。