前回の「金券500円で済まなかったYahoo! BBの民事責任 」では,刑事事件発覚後2年以上経って第一審判決が出た民事裁判の事例を取り上げた。今回は,インターネット業界で成長著しいオンラインゲームの分野に焦点を当ててみたい。


急成長オンラインゲームで起きた史上最年少のフィッシング犯罪

 2006年5月30日,警視庁ハイテク犯罪対策センターと池袋署は,名古屋市の14歳の少年を,不正アクセス禁止法違反と著作権法違反の疑いで書類送検した。NHN Japanが運営するオンラインゲーム・サイト「Hangame」の偽ホームページを作成し,フィッシング行為で女子小中学生72人を含む94人分の個人情報を盗んだ疑いである(NHN Japan「「フィッシング詐欺」事件に関しまして 」参照)。「【第10回】社内だけでは防げないフィッシング詐欺の脅威」,「【第30回】日本初「詐欺」容疑で摘発されたフィッシング犯罪 」で取り上げたフィッシング行為だが,とうとう未成年者が立件される事態となった。

 オンラインゲームを巡るトラブルは目新しいことではない。個人情報保護法施行直後の2005年4月6日に国民生活センターが公表した「身近に起こるクレジットカードのトラブル−カードの管理,こんなことにも気をつけて− 」では,「最近は未成年者がオンラインゲームや出会い系サイト等をクレジットカードで利用した際のトラブルが目立っている」と指摘していた。同センターは,2005年12月7日に「オンラインゲームに関するトラブルが急増 」を公表し,下記のような問題点を指摘している。

(1) 利用規約に違反している利用者に対する運営業者の管理が不十分
(2) 接続障害が発生しても補償が十分に行われない
(3) 強制的に利用停止されても詳しい説明がない
(4) 苦情処理体制が整備されていない

 また,2006年2月23日に警察庁が公表した「平成17年中のサイバー犯罪の検挙及び相談受理状況等について 」を見ると,「自分がオンラインゲームで使っていたID・パスワードを盗まれて不正アクセスをされ,自分がゲーム上で集めたアイテムが盗まれてしまった」という相談事例が挙げられている。「【第21回】顧客やカード会社の自己防衛策に救われたワコール 」で取り上げた不正アクセス事件では,ワコールのオンラインショップでしかクレジットカードを使ったことのない顧客が,身に覚えのないオンラインゲーム・サイトの請求を受けたことから,個人情報漏えいの事実が発覚している。このようにオンラインゲーム業界では,市場拡大の陰で,個人情報保護上の問題が噴出しているのも事実だ。


事件の後追いでは無意味なオンラインゲームガイドライン

 未成年者によるフィッシング事件発覚後の2006年6月5日,経済産業省やゲーム関連企業で構成するオンラインゲームフォーラムは,オンラインゲーム運営に関するガイドラインを公表した(同フォーラム「「オンラインゲームガイドライン」の公表について 」参照)。どんなに内容が優れていても,必要なタイミングに間に合わなければ,指針として意味がない。事件で個人情報を悪用された94人の被害者や家族は,このガイドラインをみてどう思うだろうか。

 2006年5月25日,オンラインゲームフォーラムが公表した「オンラインゲーム市場調査2006 」によると,2005年の国内オンラインゲームの市場規模は820億930万円で,対前年比142%の伸びを示している。しかし,凶悪犯罪につながるような個人情報漏えい事件が起きたら,ユーザーがサイトから逃げて,市場全体が収縮する可能性もある。成長過渡期の業界だからこそ,個人情報管理の強化を優先すべきだ。

 次回も引き続き,オンラインゲーム業界の個人情報保護について考えてみたい。


→「個人情報漏えい事件を斬る」の記事一覧へ

■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディンググループマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/