■ディスク・ボリュームやデータベースの完全な複製をリアルタイムで別のマシン上に作成する「レプリケーション」技術は,これまでは主に災害対策として使われてきた。ところが最近,レプリケーションにかかる費用が大幅に低下していることから,中堅・中小企業でもレプリケーションをバックアップ用途に使うケースも増えている。バックアップ手法としてレプリケーションを使うメリットや,販売されているバックアップ用レプリケーション製品の特徴などを紹介しよう。

(中田 敦=ITpro



レプリケーションでかなう夢

  • 最新バージョンのバックアップ
  • 瞬時のバックアップ
  • 瞬時のリストア
  • 災害対策

 レプリケーションがかなえるバックアップの夢は,最新バージョンのバックアップ,瞬時のバックアップ,瞬時のリストアなどである。頻繁に更新されるファイル・サーバーに向いている手法だ。

 レプリケーションでは,ディスク・ボリュームやデータベースの完全な複製を,リアルタイムで別のマシン上に作成する。これまでは主に,災害対策として,基幹業務アプリケーションのデータベースなどを遠隔拠点に複製するために使われてきた。データを遠隔拠点にレプリケーションしておけば,地震や火災などが発生して普段利用しているサーバーが停止しても,遠隔拠点のサーバーとデータを使って業務を継続できる。

 バックアップ事情に詳しいノックスの帆山岳営業2課課長は,「最近,レプリケーションにかかる費用が大幅に低下していることから,レプリケーションをサーバーのバックアップの手段として利用するケースが増えている」と述べる。遠隔拠点ではなく社内のサーバーにデータを複製し,バックアップ用にするのだ。

 レプリケーションには,(1)ストレージ装置で実現する手法,(2)サーバー・ソフトウエアで実現する手法——の2種類があり,バックアップで使われるのは主に(2)の手法である。というのも,(1)の手法は高価なストレージ装置や専用回線が必要であり,数千万円単位の費用がかかる。それに対して(2)の手法であれば,最近では保護したいファイル・サーバー1台当たり5万円というソフトウエア費用でレプリケーションができるようになった。使用する回線もIPネットワークであればLAN,WANを問わない。

 レプリケーションがバックアップ手法として優れている点は,(1)最新版のデータを常にバックアップできること,(2)本稼働サーバーが利用できなくなった場合でもレプリケーション先のデータが利用可能であること,(3)ファイル・コピーによる複製と比較してデータ転送量が少ないこと(図5)——である。

図5●レプリケーションとコピーの違い
コピーでは,変更があったファイルが丸ごとコピー先に転送される。それに対してレプリケーションでは,ディスク・ボリュームの中で変更があったブロックだけが転送される。一般に,ネットワークに与える負荷はレプリケーションの方が小さく,サーバーに与える負荷はコピーの方が小さくなる。

 レプリケーションであれば,本稼働サーバーが使用不能になった場合でも,その時点の最新のデータがレプリケーション先に保存されている。また,レプリケーション先のデータに直接アクセスすれば,リストアも不要だ。前回の図1で示したバックアップの魔の時間帯を極力最小化できる。

 また,ファイル・コピーの場合は,変更があったファイルの全体を転送する必要があるが,ボリューム・レプリケーションの場合は,変更があったブロックだけを転送する。ネットワークに与える負荷は,レプリケーションの方が小さい。

レプリケーションはバックアップか?

 ただし単純なレプリケーションは,バックアップの代替にはならない。バックアップの目的の1つに,「データを誤って上書きしたり削除したりした」という人為的なミスに備えることがある。レプリケーションでは,レプリケーション元に起きた人為的なミスもリアルタイムでレプリケーション先に反映されてしまう。よって,人為的なミスを復元するのにレプリケーションは向いていない。

 しかし,レプリケーションとWindows Server 2003が備える「共有フォルダのシャドウ・コピー」を組み合わせることで,レプリケーションをバックアップとして活用するソフトが出てきた。シマンテックが11月に発売した「Backup Exec 10d Continuous Protection Server(CPS)」である。このソフトの仕組みを見てみよう。

シャドウ・コピーで履歴を管理

 Backup Exec 10d CPSは,Windows用バックアップ・ソフト「Backup Exec 10d」のオプションだ。ファイル・サーバー(レプリケーション元)にインストールするエージェント・ソフトと,バックアップ・サーバー(レプリケーション先)にインストールするサーバー・ソフトで構成されている。ファイル・サーバーのボリュームを,バックアップ・サーバーにリアルタイムで複製する。バックアップ・サーバーはディスクに余裕さえあれば,複数のファイル・サーバーのレプリケーションが可能であり,バックアップの集中化も実現する。

 Backup Exec 10d CPSでは,バックアップ・サーバーでシャドウ・コピーを有効にする。シャドウ・コピー機能は,コピー・オン・ライト方式のスナップショット(詳細はパート3[6月15日公開]を参照)であり,決められたタイミング(1日1回や1時間1回など)で,その時点のファイルの状態が一瞬でバックアップ・サーバー上に保存される。シャドウ・コピーを使うと,最新のファイルだけでなく,最大で64世代前のファイルも取り出し可能になるので,レプリケーションがバックアップとして使えるようになる(図6)。

図6●レプリケーションをバックアップに活用する仕組み
Backup Exec 10dの「Continuous Protection Server」機能では,レプリケーションとスナップショット(シャドウ・コピー)を組み合わせることで,レプリケーションをバックアップとして利用している。リストアには,レプリケーション先のファイル(複数世代が残されている)を活用する。

 エンドユーザーは,Backup Exec 10dが用意するWebサイトを経由してバックアップ・サーバーにアクセスして,ファイルを自分で復元できる(図7)。このWebサイトは検索サイトに似たデザインで,エンドユーザーはキーワード検索を使って,目的のファイルを探し出せる。またレプリケーションでは,ファイル・サーバーに設定されたアクセス権(ACL,アクセス・コントロール・リスト)も完全に複製されているので,エンドユーザーが復元できるファイルは,ファイル・サーバー上でアクセスできるものに限定される。

図7●Backup Exec continuous Protection Serverが用意するリストア画面