■サーバーのバックアップは必ずやるべき作業であるが,「想定時間内に終わらない」「手間がかかる」「確実に復元できない」——といった悩みが尽きない。特にバックアップにテープを使うのが主流だった時代は,テープにまつわるトラブルが絶えなかった。
■数年前から,ハードディスクを使う「ディスク・バックアップ」が浸透し始め,管理者はテープのトラブルから解放されつつある。そして現在,長年の夢を実現するような,新しいディスク・バックアップ手法が次々利用可能になってきた。しかも,中堅・中小企業が十分に手の届く価格帯である。
■「最新版を常にバックアップする」「一瞬でバックアップを済ませる」「瞬時にリストアする」——といった管理者の夢をかなえる,新世代のディスク・バックアップ手法を紹介する。

(中田 敦=ITpro


 サーバーのバックアップは,管理者にとって頭痛の種である。

 まず,バックアップ処理そのものが,運用に対する負荷である。例えば,バックアップ・ソフトを使ってデータをバックアップしている間,サーバーは運用を止めておくのが望ましい。オンライン・バックアップ用のエージェント(ソフト本体とほぼ同じ値段)を使えば,サーバーを止めずにバックアップできるが,処理中はサーバーのパフォーマンスが低下する。

 操作ミスやハードウエア障害が起きてデータが失われた場合も,バックアップ・データがあれば万全というわけではない。基本的にバックアップで保護されるデータは「バックアップされた時点」のものだけである。バックアップを毎晩実行していたとしても,昼間にディスク障害が起きた場合,朝から昼までの間に作成されたデータは失われてしまう。

 サーバーを元の状態に戻す「リストア」も,なかなか手の込んだ作業で時間がかかる。特にサーバーを一から復旧する「ディザスタ・リカバリ」の場合,OSやアプリケーションのインストールからやり直す必要がある。サーバーの運用再開まで数時間かかることもザラだ。時間をかけて復旧作業をやっても,サーバーが完全に元に戻らないこともある。

 もっとも3~4年前から,データの保存先にテープではなくハードディスクを使う「ディスク・バックアップ」が普及し,多くの管理者が「テープ管理の煩わしさ」からは解放されてきた。

 しかし,これまでのディスク・バックアップ手法は,「既存のバックアップ・ソフトを使って,テープの替わりにNAS(ネットワーク接続ストレージ)や外付けストレージ装置にバックアップ・データを保存する」というものであった。テープ管理の煩わしさは軽減し,バックアップやリストアにかかる時間も短縮したが,「バックアップ処理中にサーバーのパフォーマンスが低下する」「リストアに時間がかかる」といった根本的な悩みは,テープをディスクに置き換えただけでは完全に解決しなかった。

 そもそもバックアップの理想とは,「データを完全に保護すること」である。その上で,手間がかからなければなお良い。しかし図1で示すように,バックアップには,データを保護できない「魔の時間帯」が存在する。

図1●バックアップではどうしてもカバーできない「魔の時間帯」
バックアップの目標は,「作成したデータが失われてしまう時間」と「データ作成ができない時間」というバックアップにまつわる「魔の時間帯」を極力短くすることにある。

 まず,バックアップを実行してから障害が発生するまでの時間帯である。この時間帯に作成したデータはバックアップされていないので,障害時に復元できない。次に,障害発生からリストアが完了するまでの時間帯だ。この時間帯は,サーバーやアプリケーションが利用できないので,データが作成できない。

 バックアップの理想に近づくためには,これら魔の時間帯を短縮する必要がある。つまり,(1)最新版を常にバックアップし,(2)バックアップ処理が一瞬で済み,(3)瞬時にリストアし,(4)管理者の手を煩わせない——のであれば,夢のバックアップが実現できるだろう。

 3~4年前でも,1000万円以上するような高価なストレージ装置や数十万~数百万円のソフトウエアを購入すれば,(1)~(4)のバックアップの夢に近づけた。ただし,投資が高額になることから,中堅・中小企業はなかなか手を出せなかったのが実情である。

低価格化が選択肢を増やす

 そして現在,状況は一変した。かつては大企業専用だったディスク・バックアップ手法が,中堅・中小企業に手の届く価格帯になってきた。

 図2は,(1)~(4)のバックアップの夢をかなえるために,現状でどのようなディスク・バックアップ手法が選択できるかを表したものである。

図2●管理者の夢をかなえるディスク・バックアップ

 例えば,最新状態を常にバックアップしたいのであれば,サーバーのディスク・ボリュームを常に別のサーバーに複製しておく「レプリケーション」がお薦めである。レプリケーションはこれまで,災害対策として,基幹業務アプリケーションのデータを遠隔拠点に複製するために使われてきた。数千万円台の高価なストレージ装置を購入するか,サーバー1台当たり25~50万円するようなソフトを導入する必要があった。それが今では,サーバー1台当たり5万円のソフトでレプリケーションが可能になった(図3)。

図3●ディスク・バックアップ・ソリューションが使いやすくなった
2~3年前は非常に高価だったディスク・バックアップ・ソリューションが,最近は安価な費用で利用できるようになった。

 一瞬でバックアップを済ませたいのなら,レプリケーションを使うのも1つの手だし,「スナップショット」という技術を搭載したストレージ装置を使う手もある。

 レプリケーションはデータが常に複製されているので,最新のデータが保護されている。またスナップショット技術を搭載したストレージ装置を使うと,わずか数分でバックアップが完了する。このようなストレージ装置の価格は,かつては1000万円以上したが,今では200万~500万円で購入可能である。