前回は,WDM(波長分割多重)*リンクで構成する光コア網において,ブロードバンド・サービスを効率的に転送する方法を紹介しました。今回は,光コア網の自在な運用を可能にする「ROADM(reconfigurable optical add/drop multiplexer)」システムを解説します。
図1●遠隔で光パスを開通できるROADMシステム リング状に接続したROADMノードと,監視制御システムであるOSSで構成する。 [画像のクリックで拡大表示] |
図2●ROADMノードの構成< [画像のクリックで拡大表示] |
ROADMシステムは,その名の通り再構成が可能な(reconfigurable),光信号の分岐/挿入を行う多重化(multiplexer)システムのことです。メトロ・エリア(都市圏)をカバーする光コア網の柔軟かつ効率的な運用を可能にします。IPルーターなどからの信号を収容するROADMノードと,監視制御システム「OSS(operation support system)」の二つで構成します(図1[拡大表示])。
ROADMシステムでは,光パス信号を分岐/挿入する際に,光信号を電気信号に変えることなく取り扱う,光スイッチ技術を採用しています。ここでいう光パスとは,一つの波長を専有する光信号の経路のことです。この光パス信号の収容には,前回紹介した光伝送規格「OTN(optical transport network)*」を用います。
光パスの開通作業を遠隔から実行可能
ROADMシステムのメリットはいくつもありますが,ここでは主なものを三つ紹介します。
第1のメリットは光パスの開通,廃止に伴う現地作業量を大幅に減らせるという点です。長距離伝送時に必要なメディア・コンバータなどのリピータを用いる従来システムでは,パス開通の際に各地点での現地作業が必要でした。ROADMシステムでは,ROADMノードを遠隔制御できるため,光パスを自在に設定できます。
実際には,パスの始点,終点局に中継インタフェース(トランスポンダ)を挿入し,クライアント装置と接続。運用局から各ROADMノードに対して,挿入(ADD),通過(THRU),分岐(DROP)の制御命令を発行することで,エンド・ツー・エンドのパス開通作業を遠隔から実行できます。
第2のメリットは,ビットレートに依存しない光コア網を構成できるという点です。
前回紹介したOTNを光コア網に用いれば,ブロードバンド・サービスを効率的に転送できます。その際,装置構成が最も単純になる方法として,イーサネット・フレームをOTNへダイレクトにマッピングする方法を紹介しました。ただし,マッピング後のビットレートがイーサネットとSONET/SDH*で異なる点をシステム構成上の課題として指摘しました。このため,クロック抽出用の電気信号処理系を両者で統一できないケースが発生します。
しかしROADMシステムを使って光コア網を構成すれば,光パス信号を電気信号に変換することなく信号処理するため,こうした課題にとらわれなくて済むことになります。
第3のメリットは,WDM装置や光クロスコネクトなどの機器を統一的に管理制御できるGMPLS*をサポート可能な点です。他の機器と統一的に管理できるため,ネットワークが運用しやすくなります。
ROADMスイッチ部で光信号を挿入/分岐
このようなROADMシステムの各種メリットを生み出している,ROADMノード内の信号の流れを簡単に説明します(図2[拡大表示])。
信号を挿入する場合,IPルーターなどから受信した信号は,ROADMノードのインタフェース部においてOTNフレームにマッピング。該当する光波長に変換されてROADMスイッチ部へと送出されます。
ROADMスイッチ部では,信号は挿入用ポートから挿入用光スイッチを経て,合波器へと送られます。ここで隣接するROADMノードから送られてくる波長多重信号と合波後,送信光増幅器により光信号レベルを回復。次のノードへと送信されます。
信号を分岐する場合は,ROADMスイッチ部の分波器を用いて,この逆の経路をたどります。
次回は,ROADMよりも豊富なスイッチ機能を持ち,メッシュ網にも適用可能なシステム「光クロスコネクト(optical cross connect system)」について紹介します。
萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 所長 山林 由明 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部長 高橋 哲夫 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部 |