■マイクロソフトの「System Center Data Protection Manager(DPM) 2006」は,ハードディスクをバックアップ・メディアとして使い,エンドユーザーによる復元操作を可能にした新しいタイプのサーバー・データ保護ソフトだ。今回はDPM 2006を使って実際にデータを復元させる手順を説明しよう。WindowsエクスプローラやOfficeソフトのファイル操作画面から,ファイルを簡単に復元できる。

(藤田 将幸=グローバルナレッジネットワーク)


 これまで説明したように,保護されたデータを復元するときは,シャドウ・コピーを使う。データはファイル・サーバー上の元の場所,または指定した任意の場所に復元できる。この復元処理は「回復プロセス」と呼ばれ,管理者とエンドユーザーの両方が実行可能である。いずれの場合も,操作は大変易しい。

管理者も楽にできるデータ回復

 管理者がシャドウ・コピーから特定のデータを回復するときは,管理者コンソールのナビゲーション・バーにある[回復]メニューを用いる(図8)。

図8●管理者が特定の時点のデータを回復する方法
DPMの管理者コンソールの上部にあるナビゲーション・バーの[回復]から実行する。従来のバックアップ・ソフトからの復元より,簡単に利用できる。[画像をクリックすると拡大]

 [回復]メニューには[参照]タブと[検索]タブがある。[参照]タブでは,エクスプローラに似た[回復可能データがあるサーバー]画面で,復元可能なデータを一覧できる。フォルダ構造やファイルはあたかもフル・バックアップを取ったように全体が見えるので,復元したい状態に最も近い時刻に作成したシャドウ・コピーを探せばよい。[検索]タブでは,ファイルやフォルダが多いときに,回復可能なデータをファイル名などで検索できる。

 回復するアイテムを見つけたらマウスで選択して,操作ウインドウの[回復]リンクをクリックしよう。これにより,[データの回復]ダイアログ・ボックスが表示される。そこで[今すぐ回復]をクリックすれば,元々そのデータがあったファイル・サーバーにデータが復元される。[回復オプション]タブでは,別名での[コピー],該当アイテムがないときのみ復元する[スキップ],同名でコピーする[上書き]が選べる。[回復させるデータ]タブで,[宛先の変更]ボタンを押すと,別の場所にも復元できる。

 この回復ジョブは,同期ジョブよりも優先される点には注意してほしい。回復ジョブの実行中に,同期ジョブが実行中か,または開始が予定されている場合,同期ジョブはキャンセルされる。

エンドユーザー回復には準備が必要

 エンドユーザーがデータを復元するときは,クライアントの「エクスプローラ」や「Office 2003」が利用できる。操作方法は,Windows Server 2003に備わる共有フォルダのシャドウ・コピーと同じだ。ただし,既定ではこの機能は無効である。

 DPMでエンドユーザー回復を利用可能にするには,Active Directoryを拡張し,DPMサーバーでエンドユーザー回復機能を有効にした上でクライアント・コンピュータに最新のシャドウ・コピー・クライアント・ソフトウエアをインストールする。

 このうちActive Directory関係の操作は,ドメインのSchema AdminsグループまたはDomain Adminsグループのメンバーであれば,DPM管理者コンソールを使用して可能だ。[エンドユーザー回復の構成]リンクをクリックして出る[オプション]画面の[エンドユーザー回復]タブにある[Active Directoryの構成]メニューを使えばよい。

 権限不足で他のユーザーに依頼するときには,DPMADSchemaExtensionというツールでActive Directoryを構成してもらう。このツールは,既定でDPMサーバーのC:\Program Files\Microsoft Data Protection Manager2006\DPM\End User Recoveryフォルダにある。

 実際には以下の4つの処理がある。

  • スキーマの拡張
  • コンテナの作成
  • コンテナの内容を変更するためにDPMサーバーにアクセス許可を付与
  • ソース共有とレプリカの共有の間にマッピングを追加

 エンドユーザー回復を有効にしたら,クライアント・コンピュータにDPMに対応したシャドウ・コピー・クライアント・ソフトウエアをインストールする。作業は次の通り。

 まず,最新の共有フォルダのシャドウ・コピー・クライアントをインストールしよう。これはマイクロソフトのWebサイトから入手できる。次に,修正プログラムを適用する。これはWindows XP SP2以降,またはWindows Server 2003,Windows Server 2003 SP1を実行しているコンピュータにインストール可能だ。やはりWebサイトから入手する。修正プログラムを適用すると,既存の共有フォルダのシャドウ・コピー・クライアントにDPMのエンドユーザー回復機能が追加される。

削除ファイルの復元は慎重に

 以上で,エンドユーザーはDPMサーバーからシャドウ・コピーを参照して,以前のバージョンのデータを回復できるようになる。

 エクスプローラを使う回復方法は,次のようになる。

  1. 回復したいファイルのUNCパスを入力(例:\\ファイル・サーバー名\共有名\ファイル名)
  2. ファイルを右クリックして出るメニューで[プロパティ]を選択
  3. [以前のバージョン]タブをクリックし,使用可能なファイルのバージョンの一覧から回復するシャドウ・コピーを選択し,[表示](内容を確認),[コピー](あて先を指定して復元),[復元](元の場所に復元)のいずれかのボタンを押す(図9)。
図9●エクスプローラによるエンドユーザー回復機能の利用例
共有フォルダ内で回復したいファイルの[プロパティ]を開くと現れる[以前のバージョン]タブから行う。使用可能なバージョンの一覧から回復するシャドウ・コピーを選択する。

 削除したファイルは,それを保存していたフォルダのプロパティを開き,フォルダの以前のバージョンを表示して回復する(図10)。ただし,フォルダの以前のバージョンに対して[復元]を実行するとそのフォルダ内のすべてのファイルが,ある時点の状態に回復される。特定のファイルを回復する場合は,いったん,フォルダの以前のバージョンを任意の場所にコピーしてから該当するファイルのみを残す。エンドユーザーには,くれぐれも操作ミスをしないように促してもらいたい。

図10●削除されたファイルを回復する場合の操作
削除したファイルがあったフォルダのプロパティを開き,以前のバージョンを参照する。ただし,そこで[復元]を実行するとフォルダ内の全ファイルが,以前のバージョンに回復されるので注意したい。特定のファイルだけを復元する場合は,フォルダの以前のバージョンを別の場所にコピーしてから該当するファイルのみを取得する。

 Office 2003を使用してデータを回復する方法も同様にシンプルである。データを作成したアプリケーション(Word 2003やExcel 2003など,Office 2003以降のアプリケーション)でファイルを開くと,[ツール]メニューに[以前のバージョンを回復]という項目が追加されている(図11)。これをクリックすると,既存のシャドウ・コピーの一覧が現れるので,そこで回復するファイルのバージョンを選択し,[開く]をクリックする。

図11●Office 2003を使用してデータを回復する場合の例
[ファイルを開く]の画面で,メニューの[ツール]−[以前のバージョンを回復]を実行する。[画像をクリックすると拡大]

 最後にもう一つ注意点がある。DPMのシャドウ・コピーの利用を徹底するときは,保護対象にしたファイル・サーバーで,OS標準搭載の共有フォルダのシャドウ・コピー機能を無効にしてほしい。

 これは,エンドユーザーが回復可能な以前のバージョンを参照すると,最初にファイル・サーバー内のローカル・シャドウ・コピーを表示するからだ。ファイル・サーバーに使用可能なローカル・シャドウ・コピーがない場合はDPMサーバー上のシャドウ・コピーの一覧が表示されるが,紛らわしい。

シャドウ・コピーは,大部分がオリジナルの参照情報

 本文中で説明したようにDPMは「シャドウ・コピー」を活用して,バックアップと復元を効率化している。この技術を使ってバックアップすれば,サイズが小さい上に,フル・バックアップとして扱えるコピーが簡単に作成できる。

 シャドウ・コピーは,一般にスナップショットと呼ばれ,バックアップ・ソリューションでは今や欠かせない。Windows Server 2003には,シャドウ・コピーの作成を支援するボリューム・シャドウ・コピー・サービス(VSS)という機能が備わっており,既にWindows Server 2003の標準バックアップ機能や共有フォルダのシャドウ・コピーという機能で利用できる。DPMもVSSを利用している。

 DPMでのシャドウ・コピーの実体は図Aのように,基本的にオリジナルであるレプリカへの参照情報である。この参照情報は瞬間的に作成され,指定時点からの更新部分だけが,実際にシャドウ・コピーにコピーされる。その結果,シャドウ・コピーのサイズは,増分バックアップのそれに近くなる。

図A●シャドウ・コピーとは?
DPMのシャドウ・コピーは,レプリカの変更されてない部分については参照情報を記録しつつ,変更部分をコピーしたもの。一般に短時間で作成でき,サイズも小さい。

 注意点は,レプリカが壊れたり,レプリカと保護データとの間に不整合が発生したりすると,シャドウ・コピーにとっても問題になることだ。

 シャドウ・コピーを使った回復では,データのほとんどは,参照情報を通して,オリジナルのレプリカから取得する。例えば,オリジナルが壊れてしまっては,参照先にアクセスできずに回復が不可能になる。

 シャドウ・コピー技術は,今後も各種マイクロソフト製品が採用する。SQL Server 2005ではデータベースのシャドウ・コピーが作成できるようになる。


日経Windowsプロ2005年11月号掲載