=== (前編を読む) ===

 日本テレビ系列で,関西の民放局「讀賣テレビ放送」。民放としては初めて,2005年12月からワンセグ放送の試験放送サービスを始め,今年4月1日の本格サービスに入って積極的に事業を展開している。コンテンツ開発事業局局次長の富田求氏に,ワンセグ放送の取り組みと今後の展開を聞く後編である。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


---日本テレビとリクルートが,ワンセグでグルメ情報を提供する「日テレグルメ」を発表しましたが,讀賣テレビ放送としては,こういったクーポン提供などのサービスを提供する予定はないのですか?

 日テレグルメのサービスについては,条件を整えてYTV(讀賣テレビ放送)グルメとして早期にサービスを提供できるようにしたいと思っています。直接データ放送や1次リンクでビジネスを展開できなくても,テレビで紹介しているお店の地図情報を無料で提供したり,クーポンを提供したりします。色々なコンテンツを提供し充実させることを考えています。将来,これらの情報を基に,新しいビジネスに展開できる可能性も秘めていると思っています。

 日テレグルメのいいところは,日本テレビがリクルートと組んでいる点だと思います。このようなサービスを充実させていくには,テレビ局単独ではダメだと思うんです。我々も他業種の方々と話を進めています。ワンセグという新しいメディアの中で異業種との融合・連携により,新しいビジネスが生まれ,視聴者に役立つサービスを提供できるだろうと考えているところです。

---他局と比較した場合の強みはどこですか?

 以前から「アルゴの戦士」,「ムッチャDOLL箱 乙女の祈り」,「消息を絶つ」,「春 君に届く」などの番組で,番組連動のコンテンツを携帯サイトで展開してきました。「乙女の祈り」についてはDVD発売と連携,「消息を絶つ」はミスタードーナッツとの連携で店舗に行けばヒントがもらえる,先ほども紹介したドラマ「春 君に届く」はヒロインのブログ連動(前編参照),「アルゴの戦士」は双方向ゲーム, といったようにスポンサーとの連携を試行してきました。

 ワンセグを始める前に,すでに番組と携帯サイトとの連携や,スポンサーとの連携を行う試みをしているのは,他局と比べたときの強みでしょう。ここで得たスポンサーとの連携や物販などのノウハウを生かし,ワンセグ・サービスという双方向性を利用してさらなる可能性を試して行きたいと思います。

---ワンセグ放送に対する期待は?

 ワンセグ放送の特徴として,使い勝手が良く,いつも持ち運んでいる携帯電話機が受信端末なので,最も災害情報を伝えやすいメディアだと思っています。そこで,何か災害が発生した時は,トップ画面のPRバナーが気象警報,台風情報などの災害情報に変わるようになっています。

 現在のワンセグ放送対応携帯電話機には緊急災害信号を受信できる機能が付いていませんが,この機能を搭載すれば端末の普及のきっかけにもなると思います。

---ワンセグ放送のビジネス展開を考えるうえで,ほかのテレビ局との連携などは考えていますか?

 我々は,2005年7月からワンセグ放送対応について,日本テレビ(NTV)讀賣テレビ放送(YTV)中京テレビ(CTV),および北日本放送(KNB)の系列局4局で「NYCK1セグ会議」という検討グループを作り,そこで「ワンセグ・データ放送」,「1次リンク運用」などについて話し合っています。そこでは,(1)データ放送編成タスク,(2)技術&コスト検討タスク,(3)個人情報取扱検討タスク,(4)ビジネスモデル検討タスクの4タスクチームを作って合意点を探ってきました(図2)。

図 NYCK1セグ会議の構成

 そして,日本テレビと讀賣テレビは,民放では初めて12月22日にサイマル試験放送を始め,日本テレビ,讀賣テレビ,中京テレビ,北日本放送は,無事4月から本放送を開始しました。現在も「NYCK1セグ会議」の枠組みで,ワンセグ放送の番組連動サービスを使って番組関連するグッズをどうすれば販売できるのか,全国展開できるのかということを話し合っています。また,日テレグルメの全国展開についても,日本テレビさんから情報提供を受けて,意見交換を行い,準備を進めています。

---今後の課題・問題点は何でしょうか?

 ワンセグを使っての番組グッズ販売は,PR的な側面があるので問題ないのですが,番組グッズ以外はどうやってワンセグ放送の中で販売すればよいのかということが決まっていません。現状ではワンセグ放送で直接ビジネスができないんです。このため,TVショッピングのような番組を積極展開するためには,どんなことをクリアーする必要があるのかを明確にして行かなければなりません。今は,各局への売り上げ配分などについて話し合っているところです。

 ワンセグは,ワンクリックで通販の申込みができますが,簡単にできるからといって簡単にやってしまってよいのか,また直接ビジネスを行ってはいけないということであれば,どの部分が抵触するのか,データ放送から1次リンク,1次リンクから通信サイトへと飛んで,携帯サイト画面になってからなら,許されるのかなどを細かく検討しています。これは,ワンセグ放送が,現在音声サイマル放送であり,かつ補完放送であるという立ち位置にあるためで,テレビ映像・音声が出ている画面で,直接ビジネスを行うことはいかがなものかという考え方が根本にあるためです。現時点では,民放連で,1次リンクとデータ放送,つまりワンセグ・データ放送サービスで直接ビジネスを行わないということが,局間で申し合わせしています。

 このほかには,データ放送と1次リンクの情報を充実させていくことと,新しいサービスのビジネスモデルを構築していくことが,今後の課題です。

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