そんな帝人でCIO(最高情報責任者)を務めるのは、帝人ファーマ社長を兼務する大八木成男氏。2005年4月にCIOに任命された。同氏は、入社から約29年間にわたって医薬医療事業に携わり、IT業務の経験はほとんどない。大八木氏は就任以来、「コングロマリット(複合企業体)におけるCIOの在るべき姿」を模索し続けてきた。「例えばビール会社や化粧品会社のような製品構成が比較的シンプルな会社のCIOとでは、役割が違う」と考えているからだ。
帝人はこれまで、事業分野ごとに業界慣習に合わせたきめ細やかな情報システムを作り上げてきた。このため経営陣は、「事業ごとのアプリケーション・レベルまで、グループを統括するCIOが細かく見ていくのは限界がある」と判断。CIOの直轄部門である「CIOスタッフ室」を作り、そこに複数のスタッフを置いている。
CIOスタッフ室は、事業会社各社のIT企画部門と協議を重ねて、各社のアプリケーション改善要求の妥当性を検証する。次に、CIOスタッフ室はどんなシステムを作るか、どのベンダーを使って要求を実現するかを決めて、投資額を算出。この投資額の妥当性を大八木CIOがチェックする。その後、各事業会社の社長が改善作業を行うかどうかの最終判断を下す。
帝人の昨年度のIT投資額は120億円強で、売り上げの1~2%に相当する。このうち新規が約30億円、既存システムの保守・運用費が約95億円になる。
コングロマリットと言えば、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が有名だ。GEのCIOであるゲアリー・ライナー氏は、「CIOは変革の主導者だ」と唱えている。大八木氏も、「CIOのIにはイノベーションの意味もあるべき。CIOには『ITを使ってどのように業務改革を実現していくか』を考える使命がある」と同意を示す。
ただし、事業分野がシンプルな企業のCIOなら「どこをどういじったら業務効率が高まる、在庫を減らせる」といったことを詳細に把握し、ダイレクトに実行しやすいのに対し、コングロマリットのCIOではなかなかそうもいかない。大八木氏は、「コングロマリットのCIOが業務改革を進めるには、別のCxOのアイデアとのすり合わせが欠かせない」と語る。
実際、帝人では毎月2回、CxO会議を開き、数々の経営課題とその改善策のアイデアを共有している。CEO(最高経営責任者)、CTO(最高技術責任者)、CFO(最高財務責任者)、CHO(最高人事責任者)、CIO、CSO(M&A戦略の最高責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)、CSRO(最高ソーシャル・レスポンシビリティー責任者)の8人が参加する。
Profile of CIO
◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞
・朝日新聞
・化学工業日報
・日刊薬業
◆最近読んだお薦めの本
・『自然と生体に学ぶバイオミミクリー』ジャニン・ベニュス著(オーム社)
◆仕事に役立つお薦めのインターネットサイト
・Yahoo! ファイナンス
・Google(サイエンスの意味不明な語句や内容まで広範囲に探索できる)
◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会
・政策情報トップセミナー
・経済同友会セミナー
◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・プロジェクトの目的、日程、チェックポイント、関係先、予算投資効果などを明確に説明すること
◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、業界への不満など
・ユーザーの立場で最も効率的と思われるオプションを常に用意して、その損得を提示できるように準備しておくこと
◆ストレス解消法
・iPodで音楽を聴きながら、郊外でゆっくりとジョギング