多くのIT系メディアは「Windows Vista Beta 2」と「Office 2007 Beta 2」に大騒ぎするあまり,別の重要なベータ版のことを忘れてしまったようだ。そのベータ版とは,「Windows Server Longhorn(開発コード名,以下Longhorn Server)」である。Microsoftは5月下旬のWinHEC 2006で,Longhorn ServerのBeta 2をリリースした。広く一般に公開されるのはまだ先のことだが(2007年に出荷予定のBeta 3は広く一般に公開される),筆者がこのサーバーOSを数週間使って感じたのは,Microsoftがヒット作を作り上げようとしている,ということである。

 筆者がLonghorn Serverで一番気に入っているのは,Longhorn Serverが「Windows Vistaの悪習」に染まっていないことだ。つまりMicrosoftはLonghorn Serverに関して,できもしない約束を広言したりはせずに,過去のWindows Serverの特徴であった着実な開発サイクルを踏襲しているのだ。確かに,Longhorn Serverの開発は遅れている。現時点では2007年後半に登場予定で,これは最初の予定から約6カ月もずれ込んでいる。しかし,この遅延の一因はVistaにあるに違いない。なぜならこの2つのOSは,Beta 2まで同時進行で開発されていたからだ。

 現在,Windows ServerチームはVistaの開発から離れて,独自のスケジュールでLonghorn Serverの開発を進めている。Windows ServerチームはVistaからしばらく離れられることがうれしくて仕方ないのではないか,と筆者は思う。Microsoftはきっと,これら2つのOSを「一緒に使うと相乗効果が得られる」と売り込むのだろう。しかし,ことわざにもあるように,「離れていることがお互いの情愛をこまやかにする(absence makes the heart grow fonder)」のもまた事実だ。しばらくの間これらのOSを切り離すのは,皆にとっていいことかもしれない。

Longhorn Serverは「GUIなし」のインストールが可能

 Beta 1と比べると,Longhorn Server Beta 2は成熟し,劇的に進歩している。「Server Core」と呼ばれる革新的で優れたインストール・オプションを選ぶと,Longhorn Serverのユーザーは同サーバーOSの根幹部分(ベア・ボーン)のみをインストールできる。この根幹部分にはGUIが含まれず,DHCPやDNSといった基本的なサービスのみが利用できる。このServer Coreという技術と,「リード・オンリー・ドメイン・コントローラ(DC)」や「BitLocker(ディスク全体の暗号化機能)」といったLonghorn Serverの他の新技術を組み合わせれば,電子的な攻撃や物理的な窃盗の両方を切り抜けられる「超」安全なドメイン・コントローラを構築できるだろう。

必要最小限のコンポーネントしかインストールされなくなった

 Server Coreが実現できたのは,Longhorn Server本体や,IIS(Internet Infomation Services)といったLonghorn Serverの主要なサブ・コンポーネントが,新しいモジュラ・アーキテクチャを採用しているからである。簡単に言うと,Longhorn Serverではそれぞれのサーバーが果たすべき役割(ロール)に必要なコンポーネントだけをインストールすればいい。それぞれのコンポーネントは依存度ができるだけ低くなるよう設計されている。そして,システムの展開やセットアップのツールもコンポーネント間の依存度を理解しているので,不必要なコンポーネントが間違ってシステムにインストールされるといった事態が発生しないようになっている。

 さらに,Microsoftはデフォルトで実行されるサービスの数をWindows Server 2003から劇的に削減した。それぞれのサービスは,必要最低限のセキュリティ権限と依存度で実行できるように作りこまれている。これらは根本的な部分での改善なので,Longhorn Serverのパフォーマンスやセキュリティ,信頼性に良い影響を及ぼすと筆者は考えている。

サーバー管理コンソールが「コックピット」に進化

 Beta 2のほかの新機能として,「Server Managerコンソール」が挙げられる。Server Managerコンソールは従来バージョンに存在した「ダッシュボード」や「ウィザード」よりもはるかに使いやすい,インタラクティブな「コックピット」を提供する。ほとんどのシステム管理者は,明けても暮れてもこのコックピット内で生活することになるだろう,とMicrosoftは確信している。Server Mangerはサーバー設定のすべてを担当し,ユーザーに有用な情報を提供する。

 Windows Serverのシニア・プロダクト・マネージャであるWard Ralston氏は,先日のブリーフィング中,筆者にこう語った。「これまでは,サーバーを上手く設定するためには,多くの場所に行かなければならなかった。われわれは,この煩雑な作業をすべて排除した。Lognrhon Serverで設定できるサーバー・ロール(役割)は,他のロールとの制約や依存関係に加えて,正常なシステム設定がどのようなものであるのか,すべてを理解している。そしてその情報を,システム管理者に知らせてくれるのだ。これらの情報はすべて,Server Managerコンソールに表示される」。

グループ・ポリシーでUSBストレージの使用制限が可能に

 Longhorn Serverは,システム管理者の長年の「要望リスト」が,現実化したようなものである。長年待望されていた技術が多く含まれているからだ。例えば「Network Access Protection(NAP)」機能は,セキュリティ・アップデートが行われていないパソコンをネットワークから隔離する。「Terminal Services Remote Programs」は,ターミナル・サービス技術を使ってアプリケーションを配信する技術である。ターミナル・サービス関連ではほかにも,「Terminal Services Gateway」という新機能がある。これは,ターミナル・サービスをHTTPSで利用可能にする技術であり,ネットワークに関連する面倒な設定を最小化してくれるだろう。

 またLonghorn Serverでは,グループ・ポリシーに関する改善点が数多く見られる。例えば,ユーザーがクライアント・パソコンに接続できるUSBデバイスを制限する機能だ(ただし,この機能を利用するにはクライアント側にWindows Vistaが必要)。この機能を使えば,クライアント側であらゆるUSBキーボードやマウスの使用は許可しながら,USB接続のストレージの利用だけ禁止する,といった設定が可能になる。重要な企業機密を持ち出している従業員がいるかもしれない,といったときなどに有効だろう。

 スケジュールの遅れとBeta 2の入手の困難さを除けば,Longhorn Serverに欠点はほとんどない。Windows Vistaが思うように前進してくれない現状を考えると,開発が進むごとに重要な新機能が追加され,着実に進歩しているWindows betaを見るのは爽快である。