記事を執筆・査読する場合,どの程度詳しい説明を付けるかは,少々悩ましい問題です。記者や編集者によって違いがあるとは思いますが,多くの場合,次の2つの要素で決まってきます。1つは想定読者の「前提知識」,もう1つは想定読者が記事を読む「目的」です。
最初の「前提知識」は比較的単純です。例えば,初心者向けパソコン誌のように前提知識が少ない読者を対象とする場合,意味の分からない言葉が読者の頭に残らないよう,できるだけていねいに説明していきます。「ちょっと分かりにくいかも知れませんが,我慢して後半まで読めば理解できますよ」は通用しません。これに対して,パワーユーザー向けのパソコン誌・技術誌であれば,読者の知識レベルをもう少し高めに想定して,説明を省略することができます。
もう1つの「目的」は,もう少し複雑です。その目的のために読者がどういった情報を必要とするのか,こちらは想像するしかないからです。
例えば,1990年代後半にTCPの「帯域外データ(Out of Band Data)」を使ったWindows NT Serverへの攻撃が話題になったことがありました。記事の「目的」がサーバー管理者への実務知識の提供ならば,「TCPの帯域外データを使った攻撃が出現した。セキュリティ・ホールをふさぐための修正モジュールは×月×日から××で入手できる」だけで済むような気もします。しかし,サーバー管理者は原因となったセキュリティ・ホールがどんなものか,上司や同僚から簡単な説明を求められるかも知れません。そこで,記事には「TCPには制御情報を送信するために帯域外データ(Out of Band Data)という仕組みがある。この仕組みを使って…」とかの説明を追加することになります。
ITproの最近の解説記事を例に取ると,「IT業界を読み解くための経営分析入門」は,読者の前提知識を「技術系の社会人で,営業利益・経常利益などの用語を聞いたことがある」,目的を「IT企業の経営分析のための基礎知識を学ぶ」と想定しています。「会計システムを構築・運用するための知識を学ぶ」は目的ではありませんから,日々の仕訳から総勘定元帳や残高試算表を経て財務諸表を作成するプロセスまでは取り上げていません。
ITproのようなWebサイトで記事を提供する場合,雑誌と違って記事ごとに読者層がまったく異なるケースもあり得ます。扱っている記事もかなりバラエティに富んでいますから,他の記事を参考にして説明のレベルを決められないのが,ちょっと辛いところです。とりあえずは,各記事に対するコメントやフィードバックを参考にしながら,適当な「落としどころ」を探っていこうかと考えている次第です。