本題に入る前に,読者の方からいただいたリクエストをご紹介したいと思います。「家庭でのミニクリプトン電球に代わるLED電球を作れないものでしょうか」ということですが,今後,家庭用のAC100V電源を使ったLED照明の作成を取り上げるつもりでした。ただ,今はその回路に頭を悩ませています。

 白色LEDには一般に直流電流を流して光らせます。交流電源から直流電流を得るには,ブリッジ・ダイオードとコンデンサで整流する回路を使うのが一般的です。この場合,交流電源電圧が100Vですから,約141Vの直流が得られます。

 一方,白色LEDの順方向電圧は一般に3.7V程度です。そのため,38個を直列につなぐか,LEDの数を少なくするならば耐電圧の高い抵抗を使って電流を制限する必要があります。ただ,抵抗を使うと,せっかく消費電力の小さいLEDを使う意味がなくなってしまいます。抵抗での電力消費が大きくなるからです。本連載第1回で紹介した定電流ダイオードは,耐電圧があまり高くありません。例えば100Vの電圧には耐えられません(複数の定電流ダイオードを直列につなぐ方法もありますが)。

 そこで電圧を下げる回路を組み込むわけですが,すぐに思いつくのはトランスを使う方法です。でもこれだとパーツが大きくかさばってしまい,あまり使いたくありません。そこで今は,コンデンサを使おうと考えています。

 コンデンサは,交流に対しては抵抗成分(インピーダンス:Z)になります。その値は次の式で求められます。ここで,fは交流の周波数(日本では50または60Hz),Cはコンデンサの静電容量です。

Z=1/(2πfC)

 従って,ブリッジ・ダイオードの1次側に静電容量が適切で耐圧の高いコンデンサを入れれば,ブリッジ・ダイオードの2次側に所望の直流電圧が出てくると思うのですが(図1),問題はコンデンサの容量と,ブリッジ・ダイオードの2次側電圧の関係です。これが分からなくて困っています。実際に回路を組んで測定してみればいいのかもしれませんが,どの程度の容量のコンデンサを買ってくればいいかの見当も付きません。ただそれ以前に,AC100Vを使うのは怖いので(実際の回路にはヒューズなどを入れるのは当然としても),その点でも躊躇しています。


図1●AC 100Vを整流し,直流を得る回路
ブリッジ・ダイオードの交流側にコンデンサを入れることで,直流側の電圧が下がると思うのだが...

 さて,今回の本題です。今回は,フィラメント・タイプの懐中電灯をLED化します。LED化するに当たっては,高出力LEDを使い定格通りに光らせるための専用回路を組むことから,単に電球をLEDに置き換えるだけまで,方法は様々です。ここでは「初級編」ということで,複雑な回路を組まずに簡単にLED化してみます。

MINI MAGLITEを改造

 代表的な懐中電灯というと,MAGLITEが思い浮かぶのではないでしょうか。その中でも今回は,単3乾電池2本を使う「MINI MAGLITE AA」と,単4電池1本の「SOLITAIRE」といった小型のタイプを使います(図2)。


図2●代表的な懐中電灯
MINI MAGLITE AA(左上)とSOLITAIRE(右下)

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 MINI MAGLITE AAの電源は単3乾電池2本なので,電圧は約3Vです。白色LEDの順方向電圧は3.7V程度ですが,3Vあれば光ります。標準の電球を抜き,直径5mmの砲弾型LEDを差せば,それでLED化完成です(図3)。標準の電球は細いので,直径5mmの砲弾型LEDを差すには,リフレクタの穴をリーマーなどで広げる必要があります(図4)。ただ,電圧が低いので,思ったほど明るくは光りません(図5)。


図3●MINI MAGLITEの電球をLEDと交換した
左がオリジナルの電球。右がLED。

 
図4●リーマーで穴を拡大したMINI MAGLITEのリフレクタ

図5●MINI MAGLITEに白色LEDをつないだ
電源電圧が足りないので,あまり明るく光らない。

 白色LEDの中には,「MJLED」という順方向電圧が約3.1Vと,一般的な白色LEDよりも低く,電流を100mA流せるものがあります(図6)。これを使うと,図7のように,標準の電球と同等に明るく光らせることができます。MJLEDは少々高価ですが,乾電池2本の懐中電灯を,簡単にLED化できます(Pro Light Japanで購入できます)。


図6●順方向電圧が約3.1Vと低い白色LED「MJLED」
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図7●MJLEDを組み込んだMINI MAGLITE
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SOLITAIREを改造

 次に,単4乾電池1本のSOLITAIREをLED化します。電源電圧は約1.5Vなので,このままだと白色LEDは全く光りません。何らかの昇圧回路を組み込むか,電圧の高い電池使う必要があります。ここでは,回路を組まずに,電圧の高い電池を使います。

 単4乾電池と太さがほぼ同じで,長さが半分程度の積層電池「A23」が売られていますのでこれを使います(図8)。電圧は12Vです。


図8●電圧12Vの電池「A23」

 この電池に白色LEDをそのままつないでしまうと,一瞬でLEDが燃えてしまいます(図9)。


図9●うっかり12Vの電池に直接つないでしまった白色LED
黄色の蛍光体が焼けこげてしまった。

 そこで,抵抗または定電流ダイオードを間に挟みます。この電池は長さが単4乾電池の半分程度ですので,空いたスペースに抵抗/定電流ダイオードを入れられます。LEDに20mAを流す場合,抵抗ならば415Ω,定電流ダイオードならば10mAタイプを2本並列にします。今回は,抵抗を使いました。415Ωという値の抵抗はないので,330Ω,500Ω(1kΩを2本並列),1kΩの3種類を作りました。それぞれ,約25mA,約17mA,約8mAの電流が流れる計算です(LEDの順方向電圧を3.7V,電池の電圧を12Vとした場合)。太さが単4乾電池と同じ程度になるよう抵抗の周囲にビニール・テープを巻き,長さを整えます(図10)。


図10●LEDに流れる電流を制限する抵抗
ビニール・テープを巻いて太さを調整した。

 図11は,330Ωの抵抗を入れた場合です。なお,SOLITAIREに直径5mmの砲弾型LEDを入れる場合も,リフレクターの穴を大きくする必要があります。また,LEDの樹脂部分が長いと,レンズに当たってしまうことがあります。


図11●LED化したSOLITAIRE
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