高橋くん:
営業一部のIT推進委員。営業マンとして働く一方,システム部と協力して部内のネットワーク・システムの面倒を見ている。
島中主任:
システム部主任。社内ネットワークを運用管理する中心人物。各部署のIT推進委員からの声を社内ネットに生かすよう活動している。

高橋:えーと,FTTHにもいろいろなサービス・メニューがあるんですけど,できるだけ安いメニューでいいですよね?

島中:ちゃんとメニューの内容を確認しないとダメだよ。今回はファイルのダウンロード・サービスを提供するんだから,帯域を複数のユーザーで共用するものより,回線を専有できるメニューを選んだほうがいいね。それから,接続先のプロバイダは全社インフラで使用しているプロバイダにしようと思ってるんだ。固定IPのサービスがあるし,プロバイダを統一しておけば,サポート窓口も全社用と一本化できる。何より実績があるからね。

高橋:単純に安いサービスを選ぶだけじゃダメなんですね。ところで固定IPって何ですか?

サーバー公開用にアドレスは固定で

島中:インターネットに接続するには,グローバルIPアドレス*が必要なのは知ってるよね。でも,個人が自宅で使うようなサービスだと,いつも同じIPアドレスじゃなくて,接続のたびに異なるアドレスが割り振られているんだよ。もしサーバーがそんなことになったらどうなるかな?

高橋:サーバーのアドレスが変わっちゃうとサーバーを特定できなくなっちゃいますね。


図2 固定でIPアドレスを割り当ててもらう理由
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図3 営業用サーバーを導入する際に決めなければならない要件
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図4 RAID1のしくみ
ハードディスク装置を並列につないで,耐障害性を向上させる。RAIDにはほかに,耐障害性を高めつつ読み書きの速度を向上させるしくみもある。

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島中:その通り。世の中には,IPアドレスが変わってもサーバーを特定できるダイナミックDNS*という方法がある。でも今回は,ドメイン名に自社のサブドメイン*を使うので,自社のDNSサーバーを利用することになり,ダイナミックDNSは使えないんだ(図2[拡大表示])。だから,接続のたびにIPアドレスが変わらないように,固定のグローバルIPアドレスを割り振ってもらうんだよ。ここまではいいかな? じゃあ次はサーバーを検討していこう。

機器の選定時は実績と運用のしやすさを重視

高橋:実は,サーバーも「これがいいんじゃないか」っていうのを調べてきたんです。新聞の広告に出ていたやつなんですけど…。

島中:このサーバーを選んだ基準はなんだい?

高橋:これはリリースされたばかりの最新モデルなんです。最新のテクノロジが満載で,しかも前のモデルと比較して価格も安くなってます。高性能で安いのだから,これで決まりですよね!

島中:うーん,そうした基準で選ぶのも場合によっては間違いじゃないよ。でも,安定運用という面から考えるとどうかな? 「最新」ということは,まだ稼働実績が少ないということだし,保守部品が少ない可能性もある。いくら高いサービス・レベルが必要ないといっても,代理店向けのサービスなんだから,実績のあるサーバーを選択した方がいいね。それから,サーバーを選択するにはいくつか決めておかなければならないこともあるんだ。

 そう言って島中さんはホワイトボードに書き始めた(図3[拡大表示])。

高橋:うへぇ! こんなに決めることがあるんですか?

島中:そうだよ,これらの検討は今回のシステムを将来にわたって安定的に動かすために必要なことなんだ。と言っても,情報システム部の推奨構成があるから,それを基に考えよう。サーバーのモデルは,ラックマウント型*のエントリ・モデルを考えている。サーバーは,運用管理の面から,営業部門のフロアじゃなくて全社インフラのサーバーと同じサーバー・ルームに置こうと思っているんだ。

高橋:えっ,するとデータのバックアップ作業のためにいちいちサーバー・ルームまで行かないといけないんですか? 鍵を開けてもらったりするのはめんどくさいなぁ。

島中:サーバー・ルームなら停電対策もされているし,サーバーの熱対策もバッチリだ。何よりセキュリティが万全だし,ラックにマウントするから高橋くんがうっかり蹴飛ばしちゃったなんてこともないだろうしね。

高橋:いくら僕でも蹴ったりしませんよ!

ハードディスクの障害も想定する

島中:このエントリ・モデルは標準でCPUが1個,メモリーが512Mバイト,ハードディスクおよびバックアップ装置がオプションになっている。LANアダプタは,1Gビット/秒までのイーサネットに対応している。今回の構築するシステムの用途からして,CPUとメモリーはこれで十分だと思う。ハードディスクの容量だけど,どのくらいのマニュアルを保存しておけばいいのか,調べてきたかい?

高橋:はい。だいたい一つのマニュアルが10Mバイトくらいです。年間の取り扱い製品が500製品で,過去10年分のマニュアルを保持しておくつもりなので,必要なディスク容量は単純計算で50Gバイトになります。

島中:そうだね。マニュアルだけで50Gバイトだから,その他のOSに必要な領域や営業部門の共有データなんかも考えると146Gバイトのハードディスクを2本用意することにしよう。

高橋:2本だと292Gバイトになりますよ。ちょっと多すぎませんか?

島中:いやいや,そのまま292Gバイトとして使うんじゃないんだ。RAID(レイド)1*という構成で,2本のハードディスクを1本に見立てて2本同時に使うんだよ(図4[拡大表示])。だから,確かにハードディスク容量は1本分になっちゃうんだけど,どっちか1本のディスクが壊れてもサービス提供を継続できるんだ。

高橋:へえぇ,すごいけど何だかもったいない気がしますね。

島中:これも安定稼働を優先した構成なんだよ。さて続けよう。バックアップ装置はハードディスクの容量を丸ごと保存できるものを用意すればいいね。LANアダプタのリンク・スピードも今回は100Mビット/秒の回線だから特に問題ない。さあこれで,ハードウエアについてはだいたい決まったね*


●筆者:佐藤 孝治(さとう たかはる)
京セラコミュニケーションシステム データセンター事業部 東京運用監視課・責任者
社内,社外のシステム・インフラ導入業務を経て,現在はデータ・センターの構築・運用管理に従事している。