5月23日から26日まで米国シアトルで開かれた「WinHEC(Windows Hardware Engineering Conference) 2006」では,Windows XPの次期版「Windows Vista」に関する説明が多くなされた。Vistaには,既に報道されている通り,3次元や半透明のグラフィックスを利用した新しいユーザー・インターフェース「Aero」,「ガジェット」と呼ぶツールを収納した「サイド・バー」,カーネルのセキュリティ強化など,新しい機能が実装される。

 そのようなVistaの新機能の中でも興味を引いたのが,タブレットPC対応機能である。Windows XPではタブレットPC用のエディションとして「Windows XP Tablet PC Edition」が用意されていたのと異なり,Home Basic Version以外のすべてのWindows Vistaにタブレット機能が実装される。

図1●Windows Vistaの,フリック(画面を上下左右にこする操作)のカスタマイズ画面(ベータ2版)[画像のクリックで拡大表示]

 Windows Vistaには,ペン(スタイラス)による操作と,指による操作の2通りのタブレットPC対応機能が実装される。日本ではあまり流行っていないように見えるタブレットPCだが,新しいVistaのユーザー・インターフェースを見ると,ちょっと使いたくなってきた。

 まずスタイラスによる操作では,ユーザーの操作に対するPCの反応がビジュアルに返るようになった。例えばスタイラスで画面をタップすると,ペン先の部分に,水面に広がる波紋のようなビジュアル効果が表示される。Windows XP Tablet PC Editionではタップしても,ユーザーに対してその反応が何も返らなかった。そのため,タップしても何もPCの挙動が変わらない場合,それがPCが遅いだけなのか,タップ操作そのものがPCに認識されていないのかが分かりにくかった。Windows Vistaでは一目で分かる。ファイルの操作でも,各ファイルのアイコンにチェック・ボックスが表示され,不連続な複数のファイルを同時選択しやすくなった。

 さらに,「タッチUI」と呼ぶ指で直接画面を操作するためのユーザー・インターフェースが追加された。ハードウエア面ではこれまでの電磁誘導式のタブレットに加えて,感圧式のタブレット(タッチ・パネル)に対応した。タッチ・パネルを指で利用するときのためのユーザー・インターフェースがタッチUIだ。

 例えば,画面を上下左右にこする「フリック」と呼ぶ操作によって,画面を4方向にスクロールできる。より直感的な操作が可能になる。スクロールだけでなく,設定を変えることでほかの処理を定義できる。8方向に対してカスタマイズ可能だ(図1)。

 細かい部分も指で操作可能である。指で操作すると,画面にマウス・ポインタ付きの半透明のマウスの絵が表示される。その絵を指で操作するわけだ。例えば絵のマウスの右ボタンをクリックすると,右クリックになる。これならスタイラスをなくしてしまっても操作可能だ。また,いちいちスタイラスを使えない場面でも,PCを使えるようになる。

 ほかにも,ユーザーの筆跡を学習する機能などが追加されている。手書き文字の場合,使う人によって筆跡が異なる。通常,そのPCを利用するユーザーは決まっているはずだから,筆跡を学習させれば,より認識率が高くなるはずだ。入力時に働く自動学習のほか,特定の文字をその都度学習させる強制学習機能もある。もちろん,アルファベットだけでなく,日本語の学習も可能だ。

 このように操作性が改善されたVistaのタブレット機能だが,あとはハードウエア(PC本体)がもう少し軽くなれば,日本でも利用するユーザーが増えるかもしれない。現在は,業務用の特殊用途以外あまり使われていないようだ。

 それに対してWinHECが開かれた米国では,予想以上にタブレットPCの利用者が多かった。この違いは,両国の習慣の違いによるのかもしれない。よく言われるのは,米国はクルマ社会で,ほとんどの場合移動にはクルマが使われる。そのため,本体が大きくてもそれほど苦にならないということだ。実際,WinHECでモバイル/タブレット機能について説明したVistaのプロダクト・マネージャは,3台ものノートPCを担いでいた。しかも,3kg以上もありそうな,ゴツいきょう体のものばかりだった。