ストレージ・ベンダーがディスク・ベースのストレージやバックアップ製品にあまりに注力しているため,多くのシステム管理者は長年頼りにしてきたテープ・ベースのストレージ技術に未来があるかどうか不安に思っているようだ。最近明らかになった米IBMの研究成果は,実際の製品化までは時間がかかりそうだが,テープ製品の将来に希望を抱かせるものであった。

 IBMは5月の始めに,磁気テープによるデータ記録密度で世界記録を樹立した。IBMアルマデン研究センターの研究グループが,1平方インチ当たり66億7000万ビットのデータをテープに詰め込んだのだ。このデータ記録密度は,現在のテープ・ドライブに比べ15倍以上高い。この革新的な記録密度は,高度なハードウエアとソフトウエア,テープ・コーティング技術から生まれた。IBMはハード・ディスク装置の極めて微小な磁界を検出できるGMRヘッド用材料を使い,従来より精密な読み書きヘッドを開発した。さらにテープの走行機能を改善し,より高速かつ正確にデータを処理する新しいソフトウエアも開発した。

 IBMが革新技術を達成できたのには,共同研究を行った富士写真フイルムの貢献もある。富士フイルムはIBMの研究者に協力し,バリウム・フェライト磁性材料を用い,磁性体の粒子を高い密度で2層コーティングする新しい磁気テープを開発した。富士フイルムの研究者によると,「この新コーティング技術は,高密度磁気テープを製造する際に利用するほかの手法よりも商業化しやすく,既存の製造設備でテープ・メディアの生産が行える」という。

 IBMワールドワイド・テープ・ストレージ・システム担当上級プログラム・マネージャのBruce Master氏は「この新しいテープ技術をベースとする製品が市場に登場するのは,5年以上先になる」と述べる。「当社は,Linear Tape-Open(LTO)対応テープ・カートリッジ1個当たりの記憶容量を,現在の400Gバイトから非圧縮で8Tバイトまで増やすスケジュールについて,明確な計画を立てている」(Master氏)。LTOの現行製品は2004年末に登場した。Master氏によると,IBMは2007年に800Gバイトという容量のLTO-4をリリースする予定だ。Master氏は「テープ・カートリッジの容量は,今後も2年に2倍のペースで拡大する」とみている。

 テープの記憶容量が増えるのにともない,記憶容量1Gバイト当たりのコストも急激に下がり続けるはずだ。Master氏との電話インタビューの際に筆者が計算したところ,ストレージ1Mバイト当たりのコストは,LTO技術が1998年に初めて登場してから1000分の1に下がった。

 もちろん,LTO以外のテープ・ストレージ・フォーマットも市場には存在する。テープ市場は今後も極めて競争の激しい分野であり続け,「ほかのベンダーも技術への投資を継続させ,記憶容量の大きな増加が続く」(Master氏)。Master氏は「テープ・ストレージ市場が2011年まで年平均8~10%のペースで拡大する」と見込む。

 このような活発な競争は,テープが競合する他のストレージ技術に比べて,総所有コスト(TCO)面で優れた存在であり続けることを意味する。大容量のデータを長期間保存するという需要がある限り,より多くのデータをより小さな領域に納めることの必要性も増す。テープに圧縮機能を併用すれば,数Pバイトのデータを1個のデータ・カートリッジに保存できるようになる。

 ところが,テープの記憶容量が増えると,テープ・ストレージの役割は,企業によるデータのアーカイブや災害対策,特定のデータ保護目的などに徐々にシフトするだろう。ストレージ製品ユーザーにとってよい知らせは,テープ製品には明確な開発計画が存在し,今後,長い期間,重要な役割を果たすことが明らかな点だ。