図1 社内ブログの導入によって期待される効果<BR>社内ブログはグループウエアに比べてシンプルで安価なツールだが,組織や個人にとって様々な効果を見込める
図1 社内ブログの導入によって期待される効果<BR>社内ブログはグループウエアに比べてシンプルで安価なツールだが,組織や個人にとって様々な効果を見込める
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図2 社内ブログの導入を成功させる5つのポイント&lt;BR&gt;「導入したものの盛り上がらず,いつの間にか忘れられた存在に」という事態を避けるためには,導入の目的を明確にし,活発に書き込みが行われるような仕組みを作る必要がある
図2 社内ブログの導入を成功させる5つのポイント<BR>「導入したものの盛り上がらず,いつの間にか忘れられた存在に」という事態を避けるためには,導入の目的を明確にし,活発に書き込みが行われるような仕組みを作る必要がある
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 前回紹介したITベンダー3社の事例から,社内ブログの導入によって,様々な効果を期待できることがお分かりいただけただろうか。整理してみると,まず組織にとっての効果として,(1)社内のナレッジを蓄積し,共有できる,(2)新しいアイデアや企画を生み出す自由な議論の場ができる,(3)社内やチーム内,部署内の風通しがよくなり一体感が生まれる,(4)グループウエアやEIP(企業情報ポータル)の導入に比べて情報共有のコストを抑えられる,といった点が挙げられる。一方,個人にとっての効果は,(1)社内の人脈を広げられる,(2)自ら情報を発信することでスキルアップし成長できる,といった点が挙げられるだろう(図1[拡大表示])。

 ただし,社内ブログの導入で必ずこれらの効果を得られるというわけではない。一部の社員だけしか使わず,次第に忘れ去られていく──。そうならないためにはどのような工夫が必要なのか。各社の事例を基に,導入効果を高めるためのポイントを挙げてみよう(図2[拡大表示])。

【1】導入の目的を明確にする

 研究開発に関するナレッジの蓄積を狙った日立,日ごろ接触の少ない社員同士が融合する場の提供を試みたバーチャレクスといったように,各社は社内ブログを立ち上げた目的が明確だ。

 企業の情報共有やナレッジマネジメントに関するコンサルティング,システム導入支援を行うリアルコムの在賀耕平 プロフェッショナルサービスグループ シニアコンサルタントは,「目的が明確で,使い方が会社や部署のニーズにマッチしていなければ,社内ブログを導入しても機能しない可能性が高い」と指摘する。「他社がやっているから」,「世の中で流行しているから」といった安易な姿勢で導入すると失敗を招く。その危険性があることは,従来のグループウエアやEIPと同様である。

【2】熱意のあるナビゲータを置く

 「ブログシステムを導入したら自然とみんなが積極的に書き込み,盛り上がるだろう」と考えるのは間違いだ。日立の松澤氏は,「フォーラムの世界でモデレータがいるように,社内ブログでは積極的に書き込みを誘発するナビゲータ役の人が必要だ」という。具体的には,(1)投稿に対して賞賛し,評価する,(2)いろいろなテーマを交通整理して分類する,といった役割を担う人物である。松澤氏は実際に,研究開発者たちが執筆する社内ブログのナビゲータを務めている。「立ち上げ時が肝心。最初の2,3週間,投稿を促し,方向性を示してあげれば,後は口コミで書き込みがどんどん増えていくものだ」(松澤氏)。

【3】書き込みへの抵抗感を下げる雰囲気と仕組みを作る

 デジパの桐谷社長は,「社内のコミュニケーション・ツールはどこかで“ゆるさ”が必要。仕事とは関係ないようなことも自由に書ける雰囲気の方がうまくいく」と唱える。確かに,業務上の話しか書けないようでは気軽に書こうという気にならないし,斬新なアイデアも生まれにくい。書き込みを増やすためには,趣味や私生活に関する書き込みも許容する雰囲気が必要である。そのうえでバーチャレクスのように,書き込むことへの心理的な抵抗感を減らす機能を付け加えるとさらに効果的だ。

【4】閲覧率を高める仕組みを作る

 閲覧率を高めるために最も有効な手段は,デジパのように,社員(もしくはメンバー)が仕事をする上で必要な情報を,集中的にブログシステム内に集めてしまうことだ。そうすれば,いやがうえでも社員はブログを見ざるを得なくなる。

 だが,すでにグループウエアを導入している企業ではそれは難しい。その場合は,社員の声をできるだけ吸い上げて,ニーズに沿ったコンテンツを盛り込むことが必要だ。例えばデジパではウチログを社内に根付かせるために「イントラブログ委員会」を設立し,適切なカテゴリの設定法や,存在を風化させないための運用法を徹底的に議論した。

【5】適正な規模で運用する

 リアルコムの在賀氏は,「数千人規模の会社で社内ブログを情報共有に使おうとすると,情報の洪水が発生し,コンテンツを処理しきれなくなる恐れがある」と指摘する。社内ブログは目的にあわせて適正な規模で運用する必要がある。在賀氏は,「情報共有やナレッジの蓄積に利用するのなら,利用者数はせいぜい数十人までではないか」と見ている。バーチャレクスではチアリの利用者が100人を超えているが,これは「組織の融合」という目標があったためである。

 社内ブログは今後さらに普及し,定着していくのか,それとも一時的なブームとして消え去るのか。現時点では,まだどちらとも断言はできない。ただし,常に「建前」に従うことが求められてきた会社の中で,個人としての顔を見せられ,ささやかながらも「本音」をぶつけ合える場所が誕生した意義は大きい。だからこそ社内ブログは,単なる情報共有ツールにとどまらず,社員やメンバーたちの一体感を高める「かけがえのない場」になる可能性を秘めている。

(鶴岡 弘之)