図1 現在のインターネットでは,プロバイダに料金を払えば,どこへでもデータを運べる(イラスト:なかがわ みさこ)
図1 現在のインターネットでは,プロバイダに料金を払えば,どこへでもデータを運べる(イラスト:なかがわ みさこ)
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図2 プロバイダの収入は増えないのにトラフィックは増えている(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 プロバイダの収入は増えないのにトラフィックは増えている(イラスト:なかがわ みさこ)
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 「インフラただ乗り論」とは,インターネット利用者はインターネットの利用実態に即した応分のコストを負担すべき,というインターネット・サービス・プロバイダの考え方のことである。利用者と直接契約したプロバイダだけが,その利用者から料金を受け取るという現在の方法では,爆発的に増え続けるインターネットの通信を支えるだけの設備を維持することが難しいと考えるベンダーが主張している。

 ユーザーがインターネットを利用するには,プロバイダと契約して毎月利用料金を払っている。これで,インターネット上にあるさまざまなコンテンツにアクセスできることになるが,これは情報を発信するコンテンツ事業者側でも同じである。コンテンツ事業者は,接続しているプロバイダに料金を払うことで,インターネットを使った情報提供が可能になる。

 インターネットでは現在,ADSLやFTTHといったブロードバンド回線の高速性を生かしたサービスが広がっている。例えば,USENの動画配信サービス「GyaO」や,フリーのIP電話サービス「Skype」などの動画配信サービスや音声通話サービスが代表的で,無料で使えることからユーザー数は爆発的に増えている。

 インターネットを利用するユーザーにしてみると,こうした便利なサービスを手軽に利用できるのは嬉しいこと。ところが,これらの通信を運ぶプロバイダにとっては悩みのタネとなっている。なぜなら,大量のトラフィックを運ぶには回線設備を増強しなければならないからが,回線設備を増強するコストに見合うだけの収入源が確保できないからである。

 動画配信サービスを提供するコンテンツ事業者は,接続したプロバイダに対してだけ料金を払えば,インターネット上のすべてのユーザーにコンテンツを送れるようになる。これは,言ってみれば自分の近くの町で買ったフリーパスを使って,バスを乗り続けながら遠くの町まで行くようなものである(図1)。

 インターネットはプロバイダ同士がつながって成り立っており,中間に位置するプロバイダはトラフィックを他のプロバイダに中継する役割も担っている。だが,中間に位置するプロバイダは,コンテンツ事業者が送り出す大量のトラフィックを中継したとしても,コンテンツ事業者から料金を徴収することはない。それにもかかわらず,大量のトラフィクを運ぶために,回線設備の増強を強いられることになってしまう。このためプロバイダが,「コンテンツ事業者は,我々が作ったインフラをただ乗りしているようなものだ」と主張しているのが「インフラただ乗り論」の考え方だ。先ほどの例で言えば,別の町で買ったフリーパスを使って乗っている人でバスが満員になっているような状態といえる(図2)。

 プロバイダの主な収入源は,会員ユーザーから得る利用料金である。そこで,回線設備を増強するためのコストを得るために考えられるのは利用料金の値上げだが,プロバイダが料金を値上げすればユーザーは別のプロバイダに流れてしまうかもしれないジレンマがある。また,トラフィックを止めたり帯域を絞って対処する手もあるが,動画や音声といったトラフィックは,少しでも止まるとユーザーの快適さが損なわれてしまうため,こうした対策もなかなか採りにくいのが実情である。

 具体的な解決策が見えないため,プロバイダは打つ手がないというのが現状だ。そこで,インターネット全体として増え続ける設備コストを誰が負担するべきなのかという議論が,総務省を中心として本格的に始められている。

 その議論の中では,いくつかの案がある。一つは,GyaOのような大量のトラフィックを出すコンテンツ事業者に負担を求める案である。現在インターネットの利用料金は定額制が主流だが,これを通信量に応じて料金を決める従量制に変更するというものだ。こうすることで,大量のトラフィックを出すコンテンツ事業者から追加料金を得られるようにする。そして,こうして集めたお金をプロバイダのユーザー数などに応じて「インフラ維持・増強費」としてプロバイダに分配する。

 また,インターネットを利用するユーザーに広く負担してもらうという案も出ている。これは,ユーザーが毎月プロバイダに支払う利用料に「インターネット維持料」とでも言うべき料金を上乗せしようというものである。

 総務省による話し合い(懇談会)の結果は,2006年9月ころに報告書としてまとめられる予定である。