LANケーブルの説明で,より対線(ついせん)という言葉がよく登場します。より対線とはその名の通り,絶縁被覆された細い銅線一対(2本)をより合わせたケーブルです。「より合わせた一対の線」だからより対線というわけです。ツイスト・ペア(twisted pair)ケーブルとも言います。イーサネットで使うケーブルは,よくUTPケーブルと呼ばれますが,これは「非シールドより対(unshielded twisted pair)」の略です。

 より対線は何対かを束ねても細くて扱いやすく,安く作れます。このため,電話局から家庭を結ぶ電話線ケーブルとして最初は普及し,その後,LANに応用されました。

外部ノイズから信号を守る

 では,わざわざ2本の銅線をより合わせているのはなぜでしょうか。単に相手に電気信号を伝えるだけなら,より合わせなくても銅線が2本あれば伝わるはずです。実はこれ,外部からのノイズの影響を打ち消すためなのです。

 信号にノイズが混入するのは,信号を伝える銅線に外から電磁波が届くことが原因です。銅線を横切る磁力線が増えたり減ったりすると,起電力と呼ばれる力が発生します。中学校の理科の時間に習った「ファラデーの法則」です。この起電力のせいで銅線ペアに余計な電流が流れ,これが伝えたい信号に混入するノイズになるわけです。

 ノイズを防ぐ方法の一つに,外からの電磁波が入り込まないように銅線の周りを導電体でぐるっと覆うシールドという方法があります。起電力を銅線ペアの外で発生させて,逃がしてしまうわけです。ただ,シールドをすると太くて扱いにくくなり,コストも高くなってしまいます。

 非シールドより対線は,一対の銅線をより合わせて,電磁波の影響を打ち消しています。銅線を半回転させると,電磁波の影響は半回転前の部分と逆向きに働きます。銅線をよっていけば,少し位置がずれた部分で発生した起電力と相殺されるので余計な電流が流れず,ノイズが発生しにくくなります。シールドには及びませんが,銅線を平行に並べることと比べれば,ノイズの影響をはるかに小さくできます。

 さらに,より対線は隣の信号線から発生する電磁波がノイズ源となる「漏話(ろうわ)」と呼ばれる現象を防ぐ効果もあります。漏話は,銅線に電流が流れると周りに磁力線が発生することで起こります。最初に説明したように,実際のケーブルはより対線を何対か束ねています。銅線ペアに流れる電気信号には強弱がありますから,磁力線も同じように増えたり減ったりします。これが隣のペアにとってはノイズ源になってしまうわけです。

よりのピッチが異なるペアを束ねる

 しかし,銅線ペアがより合わせてあれば,発生する磁力線の方向が半回転ごとに逆になり,打ち消し合うため,外に出る磁力線が減ります。これに加え,イーサネット・ケーブルや電話線では,より合わせるピッチが少しずつ異なるより対線を束ねる工夫をしています。銅線ペアごとによりの位置関係をずらして隣のペアから漏れる磁力線を受け取るのです。こうすれば,隣のペアから漏れる磁力線の起電力をよりの効果でうまく打ち消せます。この結果,漏話が起こりにくくなります。