写真1●David上で動く数字パズルの「数独」の画面。はまること間違いなし
写真1●David上で動く数字パズルの「数独」の画面。はまること間違いなし
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写真2●MS Office 2000のインストーラーが起動したところ。あたかもX Window用アプリケーションの様に動作している
写真2●MS Office 2000のインストーラーが起動したところ。あたかもX Window用アプリケーションの様に動作している
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写真3●MS Wordを起動して文章を書いてみた。Linux版ATOKでインライン入力変換ができる。動作はスムーズ
写真3●MS Wordを起動して文章を書いてみた。Linux版ATOKでインライン入力変換ができる。動作はスムーズ
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写真4●インストールしたWindows用アプリケーションはDavidコンソールで確認できる。各種設定もここから行える
写真4●インストールしたWindows用アプリケーションはDavidコンソールで確認できる。各種設定もここから行える
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 Linuxの用途といえば,まだまだサーバー用というイメージがあるが,それでも少しずつデスクトップ用途の可能性は広がってきている。ターボリナックスの「Turbolinux FUJI」(以下FUJI)は,様々なディストリビューションの中でも,かなり意欲的にデスクトップ向けとして開発が行われている。今回は製品版パッケージをインストールして,一般ユーザーが使用する視点から完成度をチェックしてみた。

「Turboインストール」は快適だが環境を選ぶ

 FUJIの製品版はCD-ROMが5枚(バイナリ2枚・追加の商用ソフト1枚・ソース2枚),クイックスタートガイド,その他の書類と意外とシンプルな構成になっている。クイックスタートガイドはインストールと,基本的な使用方法,バンドルされている商用ソフトウエアの説明だけが記載されており,ある程度Windowsを触ったことがあるユーザーをターゲットにしているようだ。ガイドの最初から,パーティション構成の解説が始まるあたりにもその姿勢が伺える。

 インストール作業は,とにかくすべておまかせの「Turboインストール」と,様々な設定が行える「標準インストール」から選択できる。Turboインストールを選択すると,アカウントの設定(管理者パスワードと初期ユーザーの作成)だけでインストールが始まり,CD-ROMの入れ替えをするだけでインストールが完了するので,非常に手軽にインストールできる。

 注意点として,インストール先のハードディスクをWindowsがすべて使っていて空き領域がないとTurboインストールが利用できない。パーティションの削除を行うためには標準インストールを選択する必要があるため,Turboインストールの手軽さは利用できない。例えば古くなったWindows機にFUJIをインストールしようとすると,基本的に空き領域がないので標準インストールを選ばないといけなくなってしまう。マニュアル作成ではインストール先のハードディスクが重要と意識されていても,製品作りにおいてはその意識は残念ながら徹底されていないようにも感じる。

 Windowsユーザーの乗り換えを促すのであれば,Turboインストールと標準インストールの中間ぐらいのインストール方法が用意されているとよいのだが。特にWindowsパーティションのサイズを変更して空き領域を作り出す機能ぐらいまで実現できていれば,言うことはないだろう。

基本的な使用感は良好

 インストール時のアカウント作成で自動ログインを選択しておくと,再起動後はログイン済みの状態になるのですぐにデスクトップ環境が使用可能だ。

 まずはアップデートを行うためにライセンス取得を行う。この作業にはシリアル番号の入力が必要なのだが,番号が見つからない。てっきり紙が入っているのかと思って探し回ったが見つからず,箱にも何も書いていない。よくよく探してみたところ,CD-ROMの入っているケースについていた。マニュアルにはどこにシリアル番号があるのか記述がないので注意が必要。さらにケースは半透明で数字の「8」とアルファベットの「B」を見間違えて,謎の登録不能状態に陥ってしまった。本筋とはあまり関係ないが,皆さんが同じ轍を踏まないよう記しておく。

 そんな問題がありつつも,ライセンス取得が終了すれば比較的快適に使用できる。インストールされているパッケージのアップデートや追加,削除は「Turboプラス」というアプリケーションから実行できる。システムで標準で用意されているアプリケーションの他,「プラグイン」という名称で便利な,あるいは面白いソフトウエアがダウンロードでインストールできる。多くのプラグインが「フリープラグイン」として無料で利用できるが,Windowsからの移行を支援するプラグインと,DVDプレイヤーである「PowerDVD for Linux」の2つが商用プラグインとして有償で提供されている。

 とりあえず,フリー・プラグインの中からPSPなどにも移植されて人気のある数字パズル「数独」(Ksudoku)をインストールしてみたところ,簡単にインストール,実行が行えた(写真1)。プラグインはターボリナックスのWebページで紹介されているのでチェックしてみるといいだろう。

 WebのブラウジングはFirefoxがデフォルトブラウザとなっており,スムーズに行える。日本語入力にはLinux版ATOKが利用できるが,きちんと「半角/全角」キーを使って日本語入力のON/OFFが行えるようになっているので,Windowsユーザーでも違和感なく操作できるだろう。最近多いWebページ上のFlashなどの動画も再生可能となっているので,Webブラウジングでは大きな不便は感じないだろう。

 唯一の難点はストリーミングビデオの視聴だ。Windows Mediaのうち,著作権保護がかかっているものは残念ながら再生できない。これはLinuxに限らずWindows以外のOSに共通の問題であり,現時点では解決も難しいだろう。

 ビデオの再生にやや問題がある以外は,特別これといった大きな問題は見あたらなかった。あとは主観的な問題だが,デスクトップ環境にKDEを採用しているが,環境全体としての調和や洗練度といった点がより一層改善されればと感じた。

Windowsアプリケーション互換「David」を試す

 FUJIの大きな特長として,Windowsアプリケーションがそのまま動く「David」が用意されている。DavidはWindowsアプリケーションをエミュレートする「WINE」をベースにしたミドルウェアで,アプリケーションごとに「イネイブラ」を用意することでWindowsアプリケーションの実行を可能にする。

 標準状態でDavidがインストールされていなかったので,Turboプラスからインストールを行う。インストール後にログインし直すと画面右下に「Davidシステムトレー」が常駐し,ここからコントロールできる。

 今回はマニュアルの記述に従って「MS Office 2000」をインストールしてテストしてみた。インストーラーもごく普通に動作し,「Word」の実行とLinux版ATOKでのインライン入力とスムーズに動作した(写真2,3,4)。

 ただし,動作互換性が100%というわけでもない。ところどころで正体不明のエラー・ダイアログが表示されるのが気になった。何度かはマウスのクリックがすべてウインドウの移動になってしまい,ボタンが押せなくなったため,アプリケーションを終了しないと回復できない状態にも見舞われた。再現性が高い問題ではないのだが,たまたま発生したというわけでもないので何か原因があるのだろう。またWINEという仕組み自体,それほど分かりやすくないので,あくまでもLinuxをメインにしながらもWindowsで作成したデータを開くためにMS Officeを実行する,というぐらいで考えておいた方がいいだろう。また,データを開くのであればStarSuite(OpenOffice.orgベースの商用製品)やAdobe Acrobat Readerなどもバンドルされているので,そちらを利用してもいいのではないだろうか。

趣味として楽しめるかどうかが分かれ目

 とりあえず,私が日常デスクトップ環境で行うことを中心に評価を行ってみたが,上に書いたようないくつかの問題点はあったものの,デスクトップ用のOSとしてFUJIを試してみて,「意外と使える」と感じた。ただ,この「意外と」をどのように捉えるのかが難しい。

 WindowsやMac OS Xの完成度と直接比較してしまえば,Linuxデスクトップの世界はまだまだ洗練されていないところも多い。「○○がやりたい」という目的が明確で,かつその目的を効率よく達成したいのであれば,Linuxをデスクトップとして使うこと自体間違っているだろう。そういう意味でビジネス用途で使うのにはまだまだ難しいと言わざるを得ない。

 しかし,Linuxに興味があって色々と触ってみたいと思っている人であれば,FUJIはTurboプラスでインストールできるプラグインのように対応しているアプリケーションも多いし,自分であれこれ試しながら解決していく面白さはあると感じた。そういう意味では,Windowsに飽きてしまったパワーユーザーあたりならば,FUJIは趣味的に楽しめる環境だと思う。残る問題としては製品の価格があるが,とりあえずお試しということであればDavidなどが含まれないBASIC版が5800円(税込)で用意されている。

 無料で入手できるということであればFedoraなどもあるが,もう少し手堅くLinuxを楽しく試してみたい人には,「Turbolinux FUJI」はおすすめできそうだ。もちろん,今後のさらなる品質向上に期待したい。

■著者紹介
宮原 徹(みやはら・とおる)氏
株式会社びぎねっと代表取締役社長/CEO。1972年,神奈川県生まれ。中央大学法学部法律学科卒。日本オラクル株式会社で「Oracle 8 for Linux」などのマーケティングを手がけた後,オープンソースのマーケティングを志し,2001年,株式会社びぎねっとを設立。「オープンソースカンファレンス」の運営など,様々なオープンソース・コミュニティの盛り上げ役として全国を飛び回っている。最近では,IPAの「未踏ソフトウェア開発事業」へのプロジェクト管理組織としての参加や,早稲田大学非常勤講師として若い才能を育てる活動も精力的にこなしている。(宮原氏インタビュー「会社に閉じこもらず交流しよう」)。