筆者は先日,友人が購入した新しいオフィスに無線LANを構築する作業を手伝った。その後友人から立て続けに「無線LANが使えない」という電話がかかってきた時,筆者は「善行は報われないものだ」と感じたものだった。彼のオフィスの無線LANに何が起き,また筆者がどのような解決策を提示したのか,事例を3つ紹介しよう。

 筆者の友人は,ある小さな町の長い歴史を持つ繁華街に立つ,美しく修復された17世紀の建物を購入した。その建物は復元前は病院として使われており,多くの従業員を収容できる十分なスペース,高い窓,素晴らしい環境とロケーションを備えていたので,彼はこの建物が自分の小さな会社に最適であると考えたのだ。

 歴史的建造物なので,建物には穴を開けずに,3フロアにまたがるネットワークを構築する必要があった。そのため彼は,無線LANの採用を決定した。これは簡単な作業に思われた。

 相談を受けた筆者は建物を見てから,彼とネットワーク構築について話し合った。彼のビルは繁華街に立地していたので,社内にあるパソコンからは常時,自社以外の4つの無線LANアクセス・ポイントが参照できる状況だった。また道路の向かい側にあるコーヒー・ショップが使用している,セキュリティ水準の低いオープンな無線LANアクセス・ポイントも参照できた。これらは立地から考えると,当然だといえよう。そこで筆者は,ネットワークを保護するための手順を記したチェックリストを彼に渡し,無線LANを自力で構築してもらった。ここまでのプロセスは非常に上手くいっていたように見えた。

 彼からかかってきた最初の電話は「ネットワークが見えない状況が続く」という内容だった。問題の原因は電波的な干渉であると推測した筆者は,調査の結果,他のワイヤレス通信デバイス,特にコードレス電話機の子機が無線LANと同じ周波数を使用していることを突き止めた。電話機を交換し,メインの無線LANアクセス・ポイントを旧式の電子レンジ(これも無線LANと同じ周波数を使用している)が置いてある休憩室から移動した時点では,問題は解決したように見えた(新しい蛍光灯が,壁に取り付けられたアクセス・ポイントからすぐのところにあったが,これはどうしようもなかった)。

 次の電話は「ネットワークが遅いのはなぜか」という内容だった。調査の結果,社員のほとんどはIEEE802.11gの無線LANカードを使用していたのだが,IEEE802.11bの無線LAN機能が組み込まれたノート・パソコンも混ざっていたのだった。これらのノート・パソコンを使用すると,ネットワーク全体が遅くなるのである。これらのノートPC用にIEEE802.11g対応の無線LANカードを購入し,内蔵の無線LAN機能を無効にすると,この問題は解決した。

 最後の電話は,それまで聞いたことがない,興味深いものであった。彼はネットワークに専用のストレージを追加することを決定し,コンピュータ量販店に出かけて小さなNAS(ネットワーク接続型ストレージ)を購入した。ところが彼は,そのNASを持って執務室に戻ったときに,そのNASをネットワークに接続する手段がないことに気が付いたのだった。有線/無線ルーターには4本までしかネットワーク・ケーブルを接続できず,そのすべてが使用中だったのである。有線接続はできなくても,彼はNASを自分の執務室に置いておきたかったのである。幸運なことに,この問題は容易に解決できた。ただし有線LANを無線LAN化する「ブリッジ装置」とは何かということと,その装置の使い方を説明するのに20分かかった。筆者は彼のためにブリッジ装置を購入し,設定も手伝うことになった。それ以来,彼からサポートの電話はかかってきていない。

 この一連の事件の教訓は明らかである。IT業界の人間は,無線LANの構築が簡単になったと信じているが,一般ビジネス・ユーザーから見れば,理解するために超えなければならないハードルは依然として存在するのである。そのことを忘れてはならない。