業界に大規模な流通インフラを構築した
業界に大規模な流通インフラを構築した
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データベースが新たな収入源に

 ダイキサウンドはこの際、マスターにミュージシャンやレーベルの名前といった基本的な情報以外に、音源もデジタルデータとして付与した。この音源が現在、「着うたフル」といった音楽データのダウンロードサービスの基礎となっている。もちろん会社設立時の99年にはインターネットによる音楽配信サービスなど普及していないが、「音源のデジタルデータの重要性は感じていた」(木村社長)という。音源をマスターに加えたことで視聴サービスにもつながった。

 同社はインディーズ作品15万曲以上という膨大なデータベースを管理している。データベースは日々更新されており、ダイキサウンドの強みとなっている。「業界初のシステムが社内にいくつもある。うちは音楽の会社というよりシステムの会社」と木村社長が話すのはこうした点を踏まえてのことだ。

 ダイキサウンドが行ったのはインディーズレーベルの作品のデータベースを作り、共同物流に載せただけではない。

 音楽ソフトの卸としてレーベルとレコード店側の双方のリスクを軽減する在庫管理の仕組みも整えた。レーベルとしては販売機会を損失したくないが、出荷し過ぎると返品される可能性もある。レコード店側も一度に大量に売れることが少ないインディーズのCDはこまめに入荷して店頭に並べたい。

 そこでダイキサウンドはレーベルから多めに製品を預かると、在庫を2種類に分けた。第1の在庫はレーベルから買い取った通常の在庫、第2の在庫はレーベルから預かっているだけの、まだ買い取っていない在庫の2段構えで機会損失に対応している。インディーズ作品は発売後1カ月以上した旧譜のほうが多く売れる。ミュージシャンが大手レコード会社からデビューして知名度が上がり、インディーズ時代に出した旧作が急に売れ始めることも多いので、ダイキサウンドにとってすぐにレコード店に出荷できる在庫を手元に抱えておくのは重要なことだ。

預託在庫でリスクを軽減

 ただし、一枚でも多く売りたいインディーズレーベルはダイキサウンドの「買い取りによる在庫」ではない、「預託在庫」に不満を抱くかもしれない。ダイキサウンド自体が在庫リスクを取らないからだ。そこで同社はその見返りとして、レーベルに販売状況に関するあらゆる情報を開示した。通常、大手レコード会社やミュージシャンの所属事務所は、詳細な販売データまでは知らされない。どの地区で人気があるか、などの細かな情報をダイキサウンドが伝えることで、レーベルやミュージシャンにとってはプロモーションの方法やコンサートの場所選定などの参考になる。

 こうしてダイキサウンドは現在700社以上のインディーズレーベルの作品を、全国360社以上のレコード販売会社、店舗数にして約3000店に卸している。現在も200社以上のレーベルがダイキサウンドとの取引を待っているという。「『ひよっこ』だった我々を業界を挙げていろいろな人が支援してくれた。責任も感じているし、恩返ししていきたい」と木村社長が語るように、ダイキサウンドの快進撃は今後も続きそうだ。


川上と川下をつなぐ大切さに気づいた

木村 裕治 社長
きむら ゆうじ氏●東京都生まれ、41歳。1985年、横浜経理専門学校を卒業。93年、NRCでPOSシステム導入を手がける。99年、ダイキサウンドを設立し、社長に就任。

 音楽ソフトは玩具や薬品と並んでPOSシステムが導入しづらい、少量多品種の代表的な商品だ。NRCで働いていたころ、レコード店へのPOSシステム導入に携わった。全国のレコード店を回るなかで、販売の現場ではインディーズという分野に対する需要が大きいことを感じ取っていたが、当時はインディーズのミュージシャンが作品を全国に販売するすべもなかったし、レコード店としても数多くのレーベルから売れる作品を選ぶなんて無理だった。

 音楽に限らずあらゆる産業には川上(生産者)と川下(消費者)が存在する。両者を喜ばせる「真ん中」をきちっと作れたらうまくいくと思ったのが、インディーズの音楽ソフトを流通させるというダイキサウンドのビジネスモデルの原点だ。

 今はパソコンで簡単に音楽を作ることができる時代。ダイキサウンドの流通に乗れば1枚からでも販売を始められる。夢を持つ若いミュージシャンたちにチャンスを与えたい。彼らの契約や宣伝活動は今後も支援していく。

 音楽は「ながら」産業。食事をしながらでも歩きながらでも釣りをしながらでも楽しめる。これまではBtoBのサービスを展開してきたが、今後はCDの販売に加えてインターネットによる配信などを通じて生活の様々なシーンに音楽を提供していきたい。(談)