今日,WWW(world wide web)は社会の基本インフラとも言えるほどに幅広く使われている。普及のきっかけとなったのは,1993年に登場したWebブラウザ「NCSA Mosaic」である。このWebブラウザは,米イリノイ大学のNCSAの学生だったMarc Andreessenが中心となって開発された。

 NCSAはスーパーコンピュータの研究で有名である。そうした研究所でも,スーパーコンピュータと直接関係しない,事務的な処理のためのこまごまとしたソフトウエアが必要だったりする。そうしたソフトウエアは,NCSAの学生がアルバイトで作っていた。その中の一人が Andreessenである。

 1992年,AndreessenはNCSAのスタッフによるWeb技術の学内デモを見る機会を得た。その将来性を感じ取ったAndreessenは,Webブラウザを作ることを決めた。プログラミングが得意なスタッフに声をかけ,共同でWebブラウザの作成に取りかかった。

 こうして翌1993年3月,UNIX版のNCSA Mosaic 1.0が完成した。その後,有志の学生の手によってWindows版とMacintosh版が作られる。

 NCSA Mosaicが登場する前から,いろいろな種類のWebブラウザがあった。それでも,一般のユーザーに幅広く受け入れられたのはNCSA Mosaicだった。

テキストと画像を一つのページに表示

 その理由は,NCSA Mosaicが他のWebブラウザにはない特徴を持っていたからである。その特徴とは,画像とテキストの両方を同じWebページに表示する「インライン表示」が可能だったことだ。今では当り前に思えるが,NCSA Mosaic以前のWebブラウザは,Webページに表示するのはテキスト情報だけで,画像は別ウインドウを開いて表示していたのである。

 インライン表示は,Webブラウザの機能だけで実現できるものではない。Webページとして表示する内容はHTMLで記述されるが,当初はテキストとほかのテキストへのリンクしか記述できなかった。Andreessenは,インライン表示を可能にするために,画像を挿入する位置を記述したり,画像データを置いてあるURLを示したりする「イメージ・タグ」という新しい書式を考え出した。

 Webはもともと,テキスト文書をリンクで結び付けて効率よく管理する「ハイパーテキスト・システム」を,インターネット上に実装したものだった。当時は,ハイパーテキストの理想に倣って,Webで扱うのはテキストに限るべきという意見も根強かった。しかし,インライン表示によって一般の雑誌と同等の表現力を得たWebは,今や主要なメディアとして隆盛を極めている。