◆今回の注目NEWS◆

◎社会保障の個人情報を一元管理、政府が個人会計制度を検討(NIKKEI NET、5月7日)
http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt68/20060506AS3S0600I06052006.html

【ニュースの概要】日本経済新聞は4月30日「政府は個人に番号を付けて社会保障の給付・負担の情報を一元管理する社会保障個人会計制度の導入に向けた検討を本格化する」と報じた。


◆このNEWSのツボ◆

 年金、医療、介護、雇用に関する社会保障について、個人間の公平を保ち、給付の適正化を目指すために、個人ごとの会計を設け、情報を一元化する検討が始まるそうである。

 個人的には、悪いことだと思わない。筆者は転職を経験しているため、社会保険が国家公務員共済→国民年金→厚生年金と切り替わっている。ところが、2年前、有名な方々の年金未加入問題が話題になったときに、「自分と家族はどうなんだろう?まさか、加入漏れはないだろうな?」と思い、調べようとした際に、それぞれが独立して事務を行っており、また、個人情報に関しては敏感になり始めた頃だったので、エラく苦労した覚えがある。

 自分の年金や医療保険、介護保険の支払い状況や使用状況くらいは、一元的に見られるようにして欲しいと思うのは私だけではないだろう。

 また、番号を付けようが付けまいが、技術的に言えば、この程度の情報を一元管理しようと思えば、それほど難しいことではないはずである。それを正直に、政府の会議で俎上に乗せる……という政府なのだから、「まぁ、悪いことはしないだろう。平和で結構なことであり、一元化してもそれほど害はあるまい」と考えることもできるだろうし、「この程度のことで大騒ぎすること自体が頼りない。アメリカなどなら、安全保障のためにこの程度の情報は国が管理していて当たり前だ」と考えることもできるだろう。

 しかし他方、今回の案には「政府による個人情報の一元管理につながり、絶対反対!!」という意見が出てくるのも間違いないだろう。確かに、私自身は「一元化で良いじゃないか」と思うが、絶対にイヤだという人に強制してまでやるべきことかどうかは微妙である。

 それなら、個人の選択制を認めれば良いじゃないかという意見がある。一見、これが最も合理的な案のように思われる。利便性を追求したい人は一元管理を好むだろうし、自分の情報は絶対に隠したい人は、一元管理を依頼しなければよい……。ところが、「行政コスト」という面から見ると、実は、この「選択制」が圧倒的にコストがかかる。単に、従来型の管理と番号制による一元管理が並立し、二重に人員を抱える必要があるだけではない。当初、従来型を選択していた人が、一元型に移行したり逆のケースがあったり…ということを想定すると、二重以上の手間がかかることになる。財政逼迫の現状では、よほど納税者の理解がないと取りにくい選択であろう。

 住基ネットへの加入に関し、住民選択制を取っていたはずの横浜市が、今回「全員加入型」に移行を決定したのも、(表向きはセキュリティ上の懸念が解消されたからとなっているが)実態はこのあたりも大きな理由だったのかも…と思えなくもない。

 いずれにせよ、住基ネットの二の舞を踏まないためにも、今回は十分な議論が必要であろう。これは、まさに世論が二つに割れそうなところであるが、逆に、この問題に、世論がどう反応するかは、ITの利便性と危険性に関する社会のとらえ方が、2002年の住基ネット稼働以降の約5年ほどの間に、どう変わったかの試験紙になるような気もする。何と言っても今回、一元管理の対象となる情報は、住基ネットに登録された情報などよりも遙かにセンシティブな情報になるはずなのだから…。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

東京大学経済学部卒。通商産業省(現 経済産業省)に22年間勤務した後、2000年7月に同省を退職。同年8月にコンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営コンサルティング、IT戦略コンサルティングまで幅広い領域で活動する。