図 次世代PHSはユーザーの状況に合わせて小さい店舗をたくさん配置して客を分散させるようなもの(イラスト:なかがわ みさこ)
図 次世代PHSはユーザーの状況に合わせて小さい店舗をたくさん配置して客を分散させるようなもの(イラスト:なかがわ みさこ)
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 次世代PHSとは,現在のPHSの特徴を生かしつつ,より高速で効率的な移動通信の実現を目指して開発を進めている新しいPHSである。次世代PHSの仕様は,事業者や機器メーカーで構成される国際的な業界団体であるPHS MoUと,日本のARIB(電波産業会)において検討が始められている。現行のPHSのデータ通信サービスは下りが最大408kビット/秒だが,これを大きく上回る20Mビット/秒以上の速度が上りと下りのそれぞれで目標とされている。そのために,無線の高速化に効果がある新しい技術を採り入れる予定である。

 次世代PHSは,総務省が割り当てる2.5GHz帯の70MHz幅周波数について,IEEE802.16e(モバイルWiMAXとも呼ばれている)やIEEE802.20と競っている。そのために,1.下り(基地局から無線機に向けての通信)速度が20M~30Mビット/秒以上,2.上り(無線機から基地局に向けての通信)速度が10Mビット/秒以上,3.第3世代携帯電話や3.5世代携帯電話を上回る周波数利用,といった三つの要件を満たすことを目指している。

 次世代PHSでも採り入れるPHSの特徴的な技術とは,セル(基地局当たりの通信範囲)の設計方法である。PHSでは出力が小さい基地局を用いて,小さいセルを密に配置するマイクロセルを採用している。一方,携帯電話やモバイルWiMAXで採用するマクロセルは,出力が大きい基地局を設置し,基地局当たりの通信範囲が広いのが特徴である。

 マイクロセルのメリットは大きく三つある。まず周波数の利用効率が高いことで,利用の集中度合いに応じて基地局を適宜配置できるため,限られた周波数を効率よく使える。二つ目が基地局と通信機器の出力レベルを小さくできることで,基地局を小型にできるので設置しやすいほか,通信機(電話機やカード型端末)の電池の持ちが良くなる。三つ目が中継処理の負荷を分散しやすいことで,ユーザーが集中する場所には基地局を多く設置するという対応が容易になる。オフィス街などユーザーが集中する地域には集中的に基地局を設置し,あまりユーザーが多くない地域は基地局の数を減らすといったエリア設計が可能となる(図)。

 次世代PHSで採用が検討されている無線の高速化技術は,OFDMとMIMOである。どちらも高速な無線LAN規格に採用されており,実績のある技術だ。OFDMは複数のサブキャリア(搬送波)を使ってデータを一度にたくさん送る技術である。MIMOは複数のアンテナを用いてデータを送信する技術で,アンテナ1本で送るよりもたくさんのデータを送れる。

 これら高速化技術の効果を検討するために,PHS事業者のウィルコムは実証実験を始めている。まずは2006年2月に,OFDMを使った第一次実証実験を公開した。この実験では動画のストリーミングやIP電話の通話を実施し,上り1Mビット/秒,下り2.5Mビット/秒という速度が確認できた。まだ目標とする速度には達していないため,次はMIMOを使った実験で速度の向上を目指すようで,これらの実験を基に実サービスを想定したチューニングを施して規格を詰めていくことになっている。