従来までのシステムの構築は,アプリケーションを前提にシステム・インフラが設計されていた,と表現して良いだろう。例えばシステムの全面刷新にERPパッケージを使用する,というのがその典型例だ。アプリケーションをERPパッケージを使って構築するため,インフラはSAPなりオラクルなりが定めた,パッケージ・ソフトが規定するアーキテクチャに全面的に移行することになる。
SOAに基づいたシステム構築では,この様相が変わってくる。新規アプリケーション---つまり新規サービスを構築する際には,そのサービスを管理・実行するためのシステム・インフラに沿わせることが大前提だ。そしてそのシステム・インフラは,自社のアーキテクチャに沿ったものでもある。言うなれば「(個別)アプリケーションより先に(全社レベルの)インフラありき」に考え方をシフトさせる必要があるのだ。
ここで言うシステム・インフラは,アプリケーション・サーバー・ソフトやESB(エンタープライズ・サービス・バス)といったサービスの基本的な実行環境だけにとどまらない。ビジネス・プロセス管理(BPM)ソフト,企業ポータル構築ソフト,各種アプリケーション同士のデータベースの整合性を取るソフトなど,多数の要素を盛り込む必要がある。
ややこしい言い方で恐縮だが,SOAに基づいたシステムにアーキテクチャが必要なことと同じく,サービスを動かすシステム・インフラにも相応しいアーキテクチャが必要だ。ユーザー企業は,実際にどのソフトを使うかはともかく,自社で整えようとしているシステム・インフラが(全社的な視点での業務プロセス要件に関する)必要十分な要素をカバーしているかをチェックしておきたい。
ビジネス・プロセス・プラットフォームの重要性
ガートナーとしては「俊敏な企業」に必要なシステム・インフラとして,「ビジネス・プロセス・プラットフォーム(BPP)」を提唱している(図)。
図:ビジネス・プロセス・プラットフォームの概要(出典:ガートナー ジャパン) |
ビジネスの急速な変化,それに応じた業務プロセスの再構成に必要なシステム・インフラの要素をまとめ上げたものだ。BPPは必ずしもSOAのためのシステム・インフラではない。そのためこれまでの連載で取り上げてきた内容と用語が異なっている部分もあるが,BPPはSOAを前提にしたものなので,ここで紹介したい。
まず基本となるのが「統合実行環境」だ。これはいわゆるアプリケーション・サーバー・ソフトやESBソフトなどで構成するものである。この統合実行環境の上で,サービスを管理・実行するための各種インフラが動作する。
その一つが「インフォメーション・マネジメント」だ。各種アプリケーション同士のデータの整合性を保つ機能を担う。「プロセス・サービス」はいわゆるBPMも含んだ機能で,新しい業務プロセスの設計や,顧客や条件によって料金を変えるといった,業務プロセスの上で動作するルールを制御する。「ユーザー体験」は,サービスや業務プロセスの管理・操作を一元的に実行する機能で,いわゆる企業ポータル構築ソフトなどが使用するテクノロジとして挙げられる。
これらのベースに位置づけられるのが,「ビジネス・サービス/メタデータ管理」である。詳しくは次回に述べるが,動作する多数のサービスについて,その基本情報を管理するものである。
この点でのインフラは,まだテクノロジーの面ではまだ“熟して”いない。ビジネス・サービス/メタデータ管理については特に熟していない。現状は人間のプロセスか,別のテクノロジーで補う必要がある。ただ,これらの要素はいずれ必要になるし,SOA関係のソフト・ベンダーも着々とソフト製品を投入するべく準備を進めている。ガートナーの予測では,2007年ごろにはこうしたインフラ向け統合製品が登場すると見ている。
プロセスの柔軟性,変更の容易性といったSOAのメリットを最大限受け取るためにも,これらの要素を踏まえたインフラの整備を進めていくのが望ましい。
IT業界を見ていると,図中の統合実行環境やプロセス・サービス,ユーザー体験の部分については製品化や機能強化などかなりの進展が見られる。一方,まだそれほど議論が進んでいないのが,インフラの要(かなめ)として重要であるはずのビジネス・サービス/メタデータ管理の部分である。次回はこのビジネス・サービス/メタデータ管理とはどのようなものかを解説する。
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