今年の秋にも本放送が始まる予定のもう1つの地上デジタル放送であるデジタルラジオ。今回は,このデジタルラジオ放送のサービス・イメージを解説する。

音楽と親和性が高いラジオ放送


図1 FM携帯向け「Now On Air」のサービス・モデル
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 ラジオの特徴は,「音楽」と「リスナーとのコミュニケーション」を中心とし,地域に密着している番組が多いことだ。またラジオを聴きながら車を運転,読書,仕事をするといった「ながら視聴」の形態をとっている。つまり,ラジオ放送は,「ながら視聴」にマッチするメディアであり,ながら視聴には「音楽」が合っている。

 音楽放送が適したラジオならではのサービスとして定着しつつあるのが,Now On Airである(図1)。Now On Airサービスとは,ラジオでOn Airしている音楽の楽曲リストを配信し,その楽曲ファイルを携帯電話のデータ通信を利用してダウンロードさせるサービスである。いわゆる「着うた」のダウンロード・サービスだ。

 このサービスにおけるダウンロード数は,すでに累計で1億を超えるほどの人気となっている。さらにFM付き携帯電話機は,FMラジオを聞きながら放送されている音楽をダウンロードできることから,出荷台数が発売1年で100万台を超えている。

 つまり,音楽を中心としたラジオ放送は携帯電話との連携により,番組と連動した音楽ダウンロード・サービスという今後のデジタル・ラジオ放送におけるキラーコンテンツの1つとして考えることができるわけだ。

 ただし,利用者は着うたなどの所望する音楽コンテンツを購入できる半面,パケット料金が別途かかるため,1曲当たりの単価がインターネット経由と比べると割高になってしまう。また,FM放送事業者はレコード会社や音楽出版社が提供している音楽ダウンロード・サイトを利用する。このため,FM放送事業者の1曲当たりの収入は3~8%(平均5%)のアフリエイト収入だけとなり,大きな収益を得にくい。

拡張2セグメントを使えば音楽ダウンロードのパケ代が大幅削減

 放送事業者が収益を得にくい音楽ダウンロードサービスを,地上デジタルラジオ放送では,収益を上げてビジネス的に成立させるために,携帯電話の通信ではなく,放送波(拡張2セグメントを利用したデータ放送)を利用しようと考えている。


図2 デジタルラジオ放送対応の携帯電話機向け音楽ダウンロードサービスの概要
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 この音楽ダウンロードサービスで,音楽データをダウンロードする流れは以下のようになる(図2)。放送事業者は,ラジオでOn Airしている音楽の楽曲ファイルと,その楽曲リストを拡張2セグメントを使用して放送する(1)。このデジタルラジオ放送を聞いているユーザーは,携帯電話機などの端末に表示されているダウンロード可能な楽曲リストから,希望する楽曲を選んで,内蔵の記録装置(メモリーなど)に保存する(2)。ユーザーは,携帯電話機に保存した楽曲を初めて聞く時に,携帯電話の通信回線を使ってライセンスの取得し,代金を支払う(3)。

 つまり,このサービスでは放送波によって音楽データが配信される。ただ,配信される音楽データは,そのままでは再生できず,ライセンス・キーが必要である。そこで,ユーザーは最初に音楽を再生するときに,携帯電話の通信機能を使ってライセンス・キーを購入して視聴する。

 利用者のメリットは,携帯電話の通信料を節約できる点にある。今のFM放送におけるサービスでは,音楽データ自体のダウンロードに携帯電話の通信回線を使っているが,デジタル放送波を利用した音楽ダウンロードサービスでは,手持ちの携帯電話にダウンロードし保存する所まで放送波を使うため,ファイル容量の大きい音楽ファイルのパケット代を別途支払わなくて済む。

 また放送事業者は,レコード会社や音楽出版社から音源の利用許諾を取得し,徴収した利用料(ダウンロードされた楽曲の料金,著作権では情報料と定義)から著作権料(インターラクティブ配信における著作権料)を1曲あたり7.7%,または7円70銭のいずれか多い額に月間の総リクエスト数を乗じて得た額(ダウンロード形式の包括的利用許諾契約の場合)を支払う。これにより,残りを自社の利益にすることができる(表1)。つまり,音源からのエンコード費用やサーバー維持管理費を差し引いても,アフリエイトよりも高い収益を上げられるわけだ。

表1 インターラクティブ配信における著作権料
ダウンロード配信タイプの包括的利用許諾契約における使用料。出典は社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)「使用料規定(平成17年11月25日改定版)」
(1)月額使用料
  情報料
ある ない
広告料などの収入 ある 広告料収入などの有無にかかわらず,1 曲1リクエスト当たりの情報料の7.7%,または7 円70 銭(いずれか多い額)に月間の総リクエスト回数を乗じて得た額にする 1曲1リクエスト当たり6 円60銭に月間の総リクエスト回数を乗じて得た額にする
ない 1曲1リクエスト当たり5 円50銭に月間の総リクエスト回数を乗じて得た額にする
最低使用料 本表で算出した月額使用料が5000円を下回る場合は5000円とする。この場合において,送信可能化する日数が5日までの場合は,日額1000円に利用日数を乗じて得た額とする

(2)着信音楽専用データの月額使用料
  情 報 料
ある ない
広告料などの収入 ある 広告料収入などの有無にかかわらず,1 曲1リクエスト当たりの情報料の7.2%,または5円(いずれか多い額)に月間の総リクエスト回数を乗じて得た額にする 1曲1リクエスト当たり5 円に月間の総リクエスト回数を乗じて得た額にする1曲1リクエスト当たり5 円50銭に月間の総リクエスト回数を乗じて得た額にする
ない
最低使用料 本表で算出した月額使用料が5000円を下回る場合は5000円とする。この場合において,送信可能化する日数が5 日までの場合は,日額1000円に利用日数を乗じて得た額とする

 上述したとおり,利用者にとっても「ラジオ」と「音楽プレーヤ」は非常に相性が良く,さらに携帯電話の通信をほとんど使わずに音楽コンテンツをダウンロードできるサービスは魅力がある。放送事業者にとっても収入増につながる。

大容量HDを搭載した「デジタルラジオ+音楽携帯」が起爆剤に

 最近はハードディスクを搭載した携帯電話機も販売されている。国内では4Gバイトのハードディスクを搭載した,auのMUSIC携帯「MUSIC-HDD W41T」,米国では米モトローラ社のiPod/iTunes携帯「Rokr」だ。

 初めからハードディスクと音楽プレーヤ機能が搭載された携帯電話機にデジタルラジオのチューナが加われば,先に解説した「デジタルラジオ放送での音楽ダウンロードサービス」がさらに進化する。通信回線を使わずに数千曲の楽曲が空から勝手に携帯電話機のハードディスクに蓄積されるのだ。いわゆる「ジュークボックス携帯」が近い将来登場するだろう。

 この結果,待ち受け状態やラジオを聞いている間に自動的に音楽ファイルが携帯電話機のハードディスクに蓄積(保存)され,利用者は保存されている数千曲の楽曲に中から,本当に所望する楽曲のみを購入するようになる。

 さらに,利用者の嗜好情報をメタデータとして携帯電話機に登録しておけば,好みのジャンルや歌手の楽曲だけを自動的にハードディスクに保存するような使い方も可能になるだろう。

5.1chサラウンド放送を有料化を検討

 3セグメント放送では1セグメント放送の3倍の帯域があるので,音楽ダウンロード・サービスはだけではなく,ライブ映像付きのスポーツ中継番組,5.1チャネル・サラウンド放送,多言語放送などができる。

 特に地上デジタルテレビ放送のワンセグ放送サービスでは提供されない「5.1チャネル・サラウンド・サービス」は,デジタルラジオ放送ならではのサービスになる。最近のカーナビ・システム,ミニコンポ,シアターシステムなどは,5.1チャネル・サラウンド・システムが搭載されている。またDVDの普及により,5.1チャネル・サラウンドは,一般家庭に浸透しつつある。

 このサラウンド放送サービスは,1セグメントを使ったデジタルラジオ放送と対になって提供されそうだ。つまり,1セグメントを使った放送と同じ番組が5.1チャネル・サラウンド音声放送でも提供される。この結果,1セグメント対応の携帯電話機では無料で高音質のステレオ音声放送が視聴でき,カーナビやコンポなどのオーディオ向けでは,オプションの有料サービスとして拡張2セグメントを使った5.1チャネル・サラウンド音声放送が視聴できるようになる。