現在,デジタル・ラジオ放送を開始している英国,フランス,カナダなどでは,デジタル・ラジオ放送のマルチプレックス事業を行っている。

 このマルチプレックス事業の枠組みはは,放送設備などのインフラ部分に相当する「ハード面」と,番組コンテンツ制作の「ソフト面」を切り離したシステムである。

 マルチプレックス事業者は,放送の維持・運行を担当し,番組編成権も持つ。放送事業者は,このマルチプレックス事業者へ番組を提供し,放送してもらうと同時に電波利用料や設備利用料を支払う()。またマルチプレックス事業者は,編成方針を明確にし,その編成方針に賛同した放送事業者からコンテンツを調達するため,各放送事業者間で競争が発生し,番組の質の向上を図ることができる。

 地域で独立している放送事業を展開するよりも全国展開という体制によって広告収入が上がるメリットもある。さらに番組を供給する放送事業者は,インフラ面を気にせずにソフト作りに集中できる。

図1 マルチプレックス事業者と放送番組事業者との関係

 国内では,このマルチプレックス事業者システムを採用し,2005年7月26日に東京の民放ラジオ局5社(TBS R&C,文化放送,ニッポン放送,エフエム東京,J-WAVE)で,地上デジタル・ラジオ放送を行うマルチプレックス事業会社(マルチプレックスジャパン)を設立した。マルチプレックスジャパンは,デジタル・インフラ整備(2011年末までに全国世帯エリアの90%のカバー率を目指す),デジタル・ラジオのチャンネル編成権,放送番組事業者の選定,受信機の普及,および放送の維持・運用を行う。