三井 英樹

 より良いWebサイトを効率よく構築しようとするなら,ほぼ1995年あたりからスタートしたとされている「Web」の歴史を振り返ってみることは有意義な作業でしょう。意味あるヒントが得られるかもしれないからです。今回は,私なりの歴史認識と,どのような技術がそのとき必要とされていたか,その結果として現在のトップランナーたちはどのような状況で開発を進めているのかを考えてみます。

五つの時代区分

 基本的には五つの流れがあり,さらにそれが新規参入者によって繰り返されているというのが私の認識です。五つの時代とは,「新規開発」「演出趣向」「マルチデバイス対応」「統合改修」「巨額投資戦略サイト」です。


Web開発の時代の流れ
新規開発時代
 Webサイトが企業の「玄関」であるかのような認識が広まり,その意味も意義も効果もわからないままに,多くの企業が自社サイトを構築した時代。基本的には,「会社案内」という「紙」をデジタル化していたと言えます。最初のページから最後のページまで一方向に頁をめくるだけのものが,自由にどこからでも読めるようになったので,その情報整理の仕方がサイト構築の「上手い下手」を分けた時代でもあります。

演出趣向時代
 星の数ほどある類似サイトの中で“目立つ”こと自体が,目標となっていた時代。伝えるべきことを吟味するよりも,人目を引き,話題になることが手っ取り早い認知度向上につながるとされたとも言えます。画像処理技術の発達に伴うグラビアを連想させる画像,黎明期のストリーミング・コンテンツなど,様々なプラグイン技術による「表現」の多様性に振り回された反面,企業側は「Webでできる面白いこと」の可能性を研究する機会を得ました。
 また,Webが「サーバー」を必要とする「システム」であることから,それまでは企業内の情報システム部門が管轄する場合が多かったのですが,映像や発信するメッセージが増えるにしたがい,システム部門から広報部門へとその管轄を移行する企業が増えてきた時代でもあります。

マルチ・デバイス対応時代
 いわゆるパソコン向けのサイト(PCサイト)が「無料」であることが常識化した時期で,ケータイ・サイトでの有料サービスに開発投資が向き始めた時代です。ただ,まだまだケータイ・サイトだけでは認知度を上げる術がなかったので,PCサイトとセットで開発が進められるのが一般的だったようです。開発にかかる投資を,できる限り短期間で回収しようとするためです。また,ケータイ向けの開発も機種ごとの細分化が起こっていなく,コンテンツ自体を互いに流用して開発コストを下げようと試みていた時期でもあります。
 しかし,こうした「ワンソース・マルチユース(一つの情報を多種多様に流用する)」的な発想は,画面サイズからして違いの大きいケータイ機種依存性と,ケータイ独自の表現手法の模索の前に,あまり語られなくなっていきます。とはいえ,このころからPCサイトだけでは,ユーザーを集めるには不十分だという現場感覚は生まれ始めました。

統合改修時代
 一つのサイトが様々な機能を盛り込み成長してはいたのですが,よく考えてみれば,どのサイトにも同じ機能が搭載されていることに気がつき始めた時期です。経済効率を考えた結果,サイトの統廃合が次々に起こりました。個別に同じような機能開発を進めていく予算が確保できなくなりつつあったとも見れます。歴史あるサイト(せいぜい5年なのです…)が消え,Webサイトが「話題」と言う側面だけでなく,「ビジネス」の観点で企業に貢献できることが明確に言い出された時期です。もはや研究開発段階は終わったという経営判断が下されたのです。
 同時に,A社サイトとB社サイトが統合された場合,A社製の(見た目の)フォーマットとB社製のフォーマットが混在することは,さすがに許容できるものではなく,Webサイトの細部にわたるまでのフォーマットの統一感というテーマが注目され始めます。すなわちCMS(コンテンツ・マネージメント・システム=データを決められたテンプレートにしたがってフォーマットして表示する仕組み)への期待も高まった時代です。

巨額投資戦略サイト時代
 そうした設備投資を続けても,Webサイトは個々の独自性を主張することは難しく,多くのサイトの中に埋もれてしまいがちです。そして,業種ごとにすでに利益を上げている上位数サイトのみが生き残っていける状況であることには変わりはありません。
 2005年あたりから起こっていることは,「ハイリスク・ハイリターン型」とも言える大型企画の波だと思います。埋もれてしまうWebサイトにそこそこの投資をしても無駄であろうという予想が,真剣にWebでビジネスを続けようとする企業に根付き始めています。

 こうした五つの時代のうち,最初の二つは担当者レベルで今後も継続して起こっては消え,消えては起こる動きでしょう。後者三つは定着していく流れのように感じています。

開発現場で必要とされてきた技術群

 このような時代変遷の中で,開発の現場ではどのような技術が必要とされてきたのでしょうか。下図(クリックすると拡大します)は,上記の時代区分の上に,開発現場で必要とされてきた技術トレンドを重ねたものです。


Webデザイン開発の現場で必要とされるもの

 概要だけ並べても,9種類の技術がこの十年で蓄積され,その大半を熟知することが要求されているのが,現在のWebサイトの開発現場です。

  1. ページ(html,htm):HTML言語仕様の理解と特殊記述法(Tips)
  2. リソース(gif,jpg):表現技術,画像の最適化(サイズ軽減)方法とデータ管理
  3. バックエンド(CGI,DB):バックエンド挙動の理解とJavaScript系技術
  4. 準ページ_1(pdf):印刷系ニーズに対する技術
  5. 準ページ_2(swf,movie):アニメーションや(ストリーミング)映像,インタラクション技術
  6. 準ページ_3(mp3):音声技術
  7. SEOリソース(検索エンジン対応):検索エンジン技術とマーケティング理論
  8. 標準化リソース(template):CMS対応やメンテナンス性向上技術
  9. 標準化リソース(css):コンテンツとレイアウトとの分離,サーバー負荷軽減技術

 さらに,これらの技術はどれも完成した(枯れた)技術ではありません。HTML言語仕様だけが唯一これに属すると思われてきましたが,CSS(Cascading Style Sheets)の再認識のおかげで,その記述スタイルはこの一年でも大きく揺れ動いています。現時点で最適なWebサイトを構築するには,本当にたゆみない技術取得努力(学習)と環境投資(PC環境)が必要とされているのです。

 Webの一般生活への浸透とともに,複雑性とページ数が増すばかりのWebサイトを正確に効率よく構築する責任は重くなってきています。Webの利点である24時間365日不眠不休のサービス提供を継続するという体制作りのために,最近ではエンジニアリング的な視点も導入されています。開発を正しく管理しない限り,それを達成できないからです。さらに,投資効果を最大限にするため,マーケティング的視点の必要性も大きくなってきています。Webは,研究開発の段階を過ぎただけでなく,単なる情報共有の仕組みでもなく,必要不可欠な(半)公共サービスになっているのですから。

 そうした技術が基盤にあることを考えると,Webデザイナも「プロフェッショナル」の域に達していないと困ることが想像できます。多少の絵が描けることや,多少のスクリプトが記述できることが,Webサイトを構築できることとは直接は結びつきません。

 社会サービス基盤とまでなっている,Webの構築スキルに対する社会的評価は,もう少し上がってもよいところまで来ています。


三井 英樹(みつい ひでき)
1963年大阪生まれ。日本DEC,日本総合研究所,野村総合研究所,などを経て,現在ビジネス・アーキテクツ所属。Webサイト構築の現場に必要な技術的人的問題点の解決と,エンジニアとデザイナの共存補完関係がテーマ。開発者の品格がサイトに現れると信じ精進中。 WebサイトをXMLで視覚化する「Ridual」や,RIAコンソーシアム日刊デジタルクリエイターズ等で活動中。Webサイトとして,深く大きくかかわったのは,Visaモール(Phase1)とJAL(Flash版:簡単窓口モード/クイックモード)など。