書籍や雑誌などで「レイヤー」という用語をよく目にします。またネットワークの参考書の多くは,レイヤーの説明を最初の方に掲載しています。でも,私たちがネットワークを使うとき,レイヤーのことなど意識しなくても使えます。レイヤーを勉強する意味は,どこにあるのでしょうか。

通信機能を役割ごとに分類する

 レイヤーの考え方を確認しておきましょう。レイヤーの考え方の基本になっているのは,通信全体を「役割」という観点で分けることです。

 例えば,メールを送るときに必要になる役割は,伝送路に信号を送る役割,データを目的地まで運ぶ役割,データが間違いなく届いたか内容を確認する役割——などに分けられます。パソコンやネットワーク上で,これらの役割に相当する機能がきちん動くことによって,メールが目的地へ届くのです。

 このように通信を役割で分類すると,それぞれの役割の間に上下関係が見えてきます。

 先ほどの例では,「伝送路に信号を送る役割」が一番下の土台になります。この役割を果たす機能が正常に働かなければ,そもそもデータを目的地まで運べません。つまり,「伝送路に信号を送る役割」の上に,「データを目的地まで運ぶ役割」があります。同様に,「データを目的地まで運ぶ役割」の上に「データの内容を確認する役割」があります。

 これは,親亀の上に小亀が乗って,小亀の上に孫亀が乗って…という形になります。このように,すべての役割が積み重なり,下の役割があってはじめてその上の役割が成り立つわけです。これが通信の階層モデルで,それぞれの階層をレイヤーと呼んでいるのです。

トラブル・シューティングや設計時に有効

 このレイヤーの考え方を知っていると,いろいろ便利なことがあります。

 例えば,トラブル・シューティングに有効です。親亀がこけるとその上にいる小亀や孫亀もこけるわけですから,下のレイヤーの機能から正しく動いているかをチェックしていけばいいのです。

  一番下はレイヤー1(物理層)です。そこで,まずはケーブルがきちんとつながっているかを確認します。次はレイヤー2(データリンク層)です。これは,LANスイッチなどのリンク・ランプがきちんと点灯しているかを調べます。さらにその次はレイヤー3(ネットワーク層)です。目的地の端末まで通信できるかをping(ピング)コマンドなどを使って調べます。こうして調べていけば,ネットワークのどの機能で障害が起こっているかわかります。

 また,ネットワークを設計するときにも便利です。このような階層モデルでは,同じレイヤーのプロトコルを入れ替えても,ほかのレイヤーには影響がありません。例えば,イーサネットと無線LANはともに同じレイヤーの規格です。ネットワークの一部をイーサネットから無線LANに替えたところで,そのほかのプロトコルを替える必要はありません。

 このように,レイヤーの考え方を理解していると,無数にあるプロトコルを役割ごとに整理できるようになり,対象となるネットワークを理解したり表現するときに便利になるのです。