イーサネットは,今や企業や家庭のネットワークを作る際に欠かせない技術になりました。研究開発が始まった1972年から今日まで,長い間使い続けられているのは,日進月歩で新技術が登場する通信の世界ではとても珍しいことです。

 そんなイーサネットに関する用語でよく目や耳にするのが,MAC(マック)というキーワードです。イーサネットを使ったことがある人なら「MACアドレス」や「MACフレーム」といった用語はおなじみでしょう。このMACには,どのような意味があるのでしょうか。

データを正しく送受信する

 MAC(media/medium access control)を日本語に訳すと「媒体アクセス制御」となります。OSI基本参照モデルの7階層の第2層(データリンク層)の部分に相当し,コンピュータ同士がフレームを確実に送受信する方法や,フレーム・フォーマットなどを規定したものです。

 LANは当初,1本のケーブルに複数のコンピュータをつないで,そのケーブルに信号を流してデータをやりとりしていました。しかし,ただコンピュータ同士をつないだだけでは正確にデータをやりとりできません。多数のコンピュータが1本のケーブルを共有しているので,同時に複数のコンピュータがデータを送信すると,ケーブル上で信号が衝突してデータが壊れてしまうからです。

 このため,LANではコンピュータが出した信号がケーブル上で衝突しないようにするしくみや,送り出した信号が衝突したかどうかを検出するなどのしくみが必要になります。MACは,ケーブルにつながる複数のコンピュータ同士が確実に通信できるようにする取り決めなのです。

 イーサネットでは,MACにCSMA/CD(carrier sence multiple access with collision detection)と呼ばれる方式を採用しています。ケーブル上で誰かが通信していないかを調べ,通信していないときにデータを送り出します。そして,もし衝突が起こったら,その信号を送り直します。

 データリンク層のLAN規格は,イーサネットだけではありません。トークンリングやFDDI(fiber distributed data interface)といったLAN規格もあります。そして,それぞれにMACの方式が決まっています。例えばトークンリングとFDDIは,トークン・パッシングと呼ばれるMACを採用しています。

 そのため,「MACアドレス」や「MACフレーム」と言うと,イーサネットだけではなく,トークンリングやFDDIで使うフレームやアドレスを指すことにもなります。イーサネットで使うフレームやアドレスは,「イーサネットのMACフレーム」や「イーサネットのMACアドレス」と呼んだ方が厳密なのです。

今ではイーサネットと同義

 しかし現在は,MACフレームやMACアドレスと言うと,イーサネットのフレームとアドレスを指すのが一般的です。これは,それだけイーサネットがLANの技術として広く普及しており,LANの代表として認知されていることの表れでしょう。

 このように,LANでは,データを確実に相手のコンピュータに伝えるために,MACで決められたしくみに基づいて動いています。MACがあるからこそ,適切にデータをやりとりできて,通信が“うMAC”(うまく)いくのです。これはダジャレですが,こうやって覚えるとMACの役割が頭に入りやすくなるでしょう。