最近、朝の通勤時に選挙運動を見かける。早朝から大きな声で主張を唱え、道行く人に注意を振り向ける立候補者の姿と、その近くでビラを配るサポート役の人々が見受けられる。呼びかけられる側においては、ほとんどの人が足早に駆け抜け、現在の日本社会における、政治に対する興味関心の低さについて、少し考えさせられる光景でもある。

 情報を発信する側には存在を認知してもらうという目的があるが、情報を伝えたい人と、それを受ける対象の間に少なからず温度差があり、その現場において少なからずコミュニケーションのミスマッチが起こっているともいえる。

 インターネット環境における検索行動、あるいは検索連動型広告の受容プロセスの中でも、このようなコミュニケーションのズレが起こっているのではないだろうか? それはなぜ発生するのか、以下に述べてみたい。

 オーバーチュアやアドワーズ広告に代表される検索連動型広告(P4P)は、検索されたキーワードに連動して広告が表示される仕組みであり、基本的には一対一のコミュニケーションが行われる。そこにはそれぞれの検索ユーザーの意志が介在している。検索連動型広告(P4P)を利用する場合にはこのような特徴をふまえて利用することが必要となってくるのである。以下で検索ユーザーの立場、さらに導入する企業の視点等いくつかの視点からみた検索連動型広告(P4P)の特徴について考えてみたい。

■検索ユーザーのレベル

 検索対象についてのユーザーの知識レベル・要求レベル・PCスキルその他さまざまな要因が関連して検索という行動に集約される。漠然とした情報を探しているユーザーから、ピンポイントで行動を伴った情報を探しているユーザーまで、その思惑は様々だ。前者については、大きな意味、漠然とした意味を表すワード、主に1キーワード等少ない数のワード数で検索を行う傾向が強い。一方の後者は2語以上のワードを検索窓に投入し、無数に広がるインターネットの情報網の中から、なるべく自分の求めている情報に近いものを探そうとしている。

 以下に、「株」というワードを含めた検索を行うユーザーについて、それぞれのユーザーの意向を想定して記してみた。下へいくほど、情報収集に際して明確な意志をもって検索を行っているユーザーだと想定する。


  • 「投資」「お金儲け」:株にたいする直接的な情報をさがしてはいないが、情報ニーズはあるユーザー

  • 「株」:株に関連するなんらかの情報を探しているユーザー

  • 「株 情報」:株全般の情報を探しているユーザー

  • 「株 オンライン」:オンライン(WEB)で株(取引)の情報を探しているユーザー

  • 「オンライン 株 取引」:株のオンライン取引に興味のあるユーザー

  • 「オンライン 株 購入」:オンライン取引で株の購入を始めようとしているユーザー



 広告出稿の対象となるユーザー数(検索数)という視点では、上記リストの上部に位置するキーワードほど大きな意味を持つため、検索の絶対数が多く、より広範囲のターゲットに対しての訴求が可能である。ただし1クリックあたりのコストが高い傾向にある。また下にいけばいくほど検索数は少なくなるが、ユーザーニーズにマッチしているため、広告がいったん表示されれば効果的であり、かつ1クリックあたりのコストは低い傾向にある。自分がアプローチを試みたい層はどれであるのか、意識しておきたい。

■媒体の特性

 またユーザーのPCスキルや知識レベルについて考えてみると、ある程度の経験者となるユーザーは一般的にGoogle、経験値の少ないユーザーはYahoo! JAPANから検索するという考え方が一般的である。経験値の高いユーザーはPCスキルが高く、情報を探す際に、複数のキーワードを投入する。さらに検索する際にはいくつもの情報源となるページをスピーディーに探しだし、そこからより自分のニーズにあった情報をピックアップする、という想定ができる。

 上記のような想定を考慮すると、例えば資料請求を目的としているキーワードの場合、アドワーズ広告からのユーザーはとりあえず(いくつもの広告を)クリックしてみるという行動パターンが考えられる。その場合上位に表示されていなくても、(オーバーチュアユーザーと比較すると)クリック数はある程度稼げるが、コンテンツの魅力度により、資料請求数は変動する。つまり同じような情報を発信している場合は資料請求は競合との比較となり、よりニーズにあったものを選定する、と想定される(差がない場合は取りあえず資料請求するとも考えられる)。もしくは短気な人はクリックした全てのサイトで資料請求をするとも考えられる。

 次にオーバーチュアからのユーザーについて考えてみる。例えば資料請求のためのユーザーの行為としてフォームへの入力が一般的となるが、オーバーチュアからのユーザーはPCスキルが低いため、入力すべき情報が多すぎると離脱率が高くなると想定できる。

 上記のような条件を考慮すると、ユーザーのレベルに合わせたリンク先ページの設定とコンテンツ作成が必要となり、資料請求、さらにその後の目的となる成約ベースでのコンバージョン率をあげるためには、競合との比較についても考慮する必要がある。

 有効な広告運営をするためには、上記のユーザーの意志と検索数(マーケットの規模)を意識したキーワード選定が求められる。広告戦略の立案には、まず検索ユーザーの姿を想像することが必要だといえる。

■自己分析・自己認識

 上記の「株」というキーワードに関するニーズを持ったユーザーに対して広告を出稿する企業として、証券業界があげられる。ある証券会社が上記のキーワードを用いて検索連動型広告を採用する場合、どのような視点が必要になってくるであろうか?

 まずネット専業のオンライン証券会社なのか、フルライン型のリアル店舗も伴った総合証券会社なのか、といった自社の特徴を考慮する必要がある。例えば「オンライン 株 取引」というキーワードを出稿する場合、前者であれば手数料の低さを広告文で訴求することが有効であり、後者であればリアル店舗や大規模なネットワークからの情報網等のバックグラウンドを特長として(価格戦略以外の要素で)、ユーザーに訴求する戦略が有効であると考えられる。

 要約すると、広告主企業は出稿の前提として、自社の強み/弱みを確認し、広告文面で打ち出す内容を明確にしなくては、有効な検索連動型広告(P4P)の活用はできないと考えられる。

■マーケット全般の動向

 次にインターネットにおける検索ニーズ全般について視点を移してみる。

 インターネット環境においても、リアルマーケットというマクロ要因から受ける影響は大きい。TVで有名企業のM&Aという情報が流れると、「株」という言葉に大衆が接触する回数は大幅に増加するため、一時的に「株」に関連する検索(「株」というワードを含む検索)が増える傾向にある。インターネット環境における検索数という指標を見ても、マスメディアの情報発信を伴ったリアルマーケットの動向と連動する傾向が強い。

 また一般的な社会の情勢、状況を考慮することも必要である。オンラインでの株取引について訴求するという条件を考えると、夏のボーナス時期を想定して、マーケットが活性化する時期に投資を集中し、さらに広告内容についても内容を盛り込むことで新規ユーザーを囲い込む戦略等が考えられる。市場の状況に即したプロモーションについても考慮することが望ましい。

 総じてみると、検索連動型広告(P4P)の有効な利用のためにはマーケティングにおけるマクロ環境、ミクロ環境の両方に考慮することが重要であるといえる。普遍的な考え方では、ユーザーの検索動向を把握し、競合他社との差別化を明確にし、自社の戦略をたてる、3C(company、competitor、client)の分析を考慮すること。さらに随時変化するマクロ環境の動向に注意を払い、状況に応じた広告戦略を立てること。リアルタイムの状況を肌で感じながら変化を捉え、スピーディーに対応できるような運営における機動性をもつことも重要だ。

 さらに一歩すすんで、上記の考え方を考慮してウェブサイトを構築すること、機動性をもってコンテンツを作成すること。また効果検証を図るためのログ解析等の検証を行い、仮説・検証の改善サイクルを作ることが重要となる。

 明確な意志や戦略を持たずに検索連動型広告(P4P)を利用することは、嵐の中、方位磁石も持たずにイカダで大海原に乗り出す状況にも例えられるかもしれない。確立された方針のもと、可能なかぎりコミュニケーションのズレを回避するよう心がけたい。

(アウンコンサルティング コンサルティンググループ 中村修巳)


 本コラムは、アウンコンサルティングのサイト 「(((SEM-ch))) 検索エンジンマーケティング情報チャンネル」に連載中の「SEM特撰コラム」を再録したものです。同サイトでは、SEOや検索連動型広告など検索エンジンマーケティング(SEM)に関する詳しい情報を掲載しています。