隣りの席の電話機に内線電話がかかってきたら,どう対応しますか?

 つまり,「“ピックアップ”などのボタンを押して代わりに出る」のか,それとも「そのまま放っておく」のか,どちらかということである。

 IP電話には,個人内線番号が使いやすい,という特徴がある。従来,PBXに接続する電話機には,内線番号が割り当てられているが,個人の内線番号という意識は低かった。というのも,電話機とPBXをつなぐケーブル(厳密に言えば,PBXのライン・インタフェース)に内線番号が割り当てられているため,内線番号を変えないようにするのは事実上,不可能だったからである。人事異動などで席が替わるたびに内線番号が変わるため,個人内線電話帳を整備するのは困難だった。

 これに対してIP電話はLANに接続するため,物理的な接続のしがらみは大幅に小さくなる。席替えの際に電話機も持っていく,もしくは移動先の電話機に個人のIDでログインする,といった方法により,従来通りの内線番号を使い続けられる。このため,個人の内線番号を使いやすくなるわけだ。

 さらに,IP電話には,「電子電話帳」+「クリック・ツー・コール」という強力な武器がある。クライアント・パソコン上,あるいはサーバー上で,電子電話帳を管理し,その電子電話帳上の電話番号をクリックするだけ電話がかけられる。今では,Excelや電子メールなど,パソコン画面上に表示された電話番号をクリックするだけで電話をかけられる製品もある。このような理由で,IP電話化すれば,個人内線番号が使いやすくなるというわけである。

個人内線番号は“使えるか”


 個人内線番号は,IP電話の導入メリットの一つとして挙げられている。電話のほとんどは部署宛てではなく個人宛ての場合が多いので,取り次ぎの手間が省け,効率化できるという理屈である。

 ところが実際には,そうは単純にいかない。なぜか。

 ここで冒頭の質問に戻ろう。個人の内線番号が設定,管理されている場合,隣りの席の電話機の呼び出し音が鳴っている。代理で応答すべきか。

 電話をかけた側が「今すぐ連絡を取れなければ意味がない」,「不在ならばあとからかけ直そう」など考えていたとする。そのとき代理で,ほかの人が出たらどうだろう。電話をかけた側は「Aさんにかけたのに,なんでほかの人が出るのか」と思うだろうし,わざわざ「Aさん,お願いします」などと余計な会話をしなければならない。場合によっては,「少々お待ちください」と保留され,しばらく待たされた挙句,「どこにいるか,いつ戻ってくるかわかりません」。なかには,個人内線番号にかけたときに,本人がいるにもかかわらず,呼び出し音が2~3回鳴るかどうかという時点で「●●課です」と代理応答する人もいるという。

 それでは,Aさん宛てだからとして放っておいたらどうだろうか。電話をかけた側があくまでAさんだけを目的として電話しているならいいが,そうでない場合もある。「Aさんが不在なら,電話を下さい,といったメッセージを残したい」「何時に戻ってくるのかを聞きたい」といった場合である。こういった場合は,たいてい何回も呼び出し音を鳴らす。周囲の人にとっては,気になるし,うるさい。一方,かけた側からすれば,個人内線番号に誰も出ないとなれば,部署代表にかけ直さなければならない。

 それぞれ一長一短,多少のことは我慢するというのも一つの解である。しかし,個人あるいは部署によって,対応がバラバラであると使いづらさが増す。

 だからといって,会社のルールとして定めることなのだろうか。共通部門や現場部門など,部署によって電話の使い方は異なる。一律に,個人内線番号の電話は・・・などとは決められない。

プレゼンス,ボイス・メールなどプラスαを利用すれば・・・


 IP電話システムの多くは,着信履歴を残せる。それも電子電話帳と連動して,内線番号だけでなく氏名なども表示できる。携帯電話の着信履歴と同じイメージである。なかには,ワンタッチ操作で,「電話を下さい」「かけ直します」などのメッセージまで残せる製品もある。こういった機能を利用すれば,個人内線番号の利便性が向上する。

 では,在席状況を管理するプレゼンス,外出や会議などの予定を管理するスケジューラを活用すればどうか。これらは,社員それぞれがきちんと入力するかによって実用性が大きく変わってくるという課題があるが,活用すればある程度の効果は期待できる。しかし,代理応答すべきかという問題が解消されるわけではない。

 それでは,ボイス・メールならばどうか。相手が不在ならば,メッセージをボイス・メールとして残せる。個人内線番号を徹底しやすい。共通部門は別として,部署代表番号を廃止してもよい。

 ところが,これも問題がある。まずはコストである。従来のPBX用のボイス・メール・システムに比べて,IP電話システムのそれは格段に安くなっているとはいえ,全社員分となるとコストがかさむ。

 業務効率化のための投資と割り切り,ボイス・メールを導入したとしても新たな問題が生じることがある。ある企業では,個人内線番号+ボイス・メールを導入したら,相手が電話に出なくなった,という事態が生じた。何回,電話しても相手が出ない。困り果てた社員が相手の席まで行ってみたら,席にいるではないか。つまり,ボイス・メールでメッセージが残るので,忙しいときは電話に出ないであとでメッセージを聞けばいい,と考える社員が出てきたのである。

 その企業では,「電話に出るように」というなんとも変なルールを定め,いったん廃止した部署代表番号を復活させたのである。

じっくりと検討,相談してみては


 たかが,個人内線番号であるが,実際の運用はなかなか難しいようである。難しいだけで終わったのではシステムを導入した意味がない。システムやツールの導入は,きちんと利用シーンをシミュレーションして,目的を果たせるかまで検討しなければならない。これは当たり前のことなのだが,電話となると軽く考えられることが多いようである。

 シミュレーションの結果,ボイス・メールまで導入しなければ,目的を果たせないかもしれない。コスト増になるが,そのコストを渋ってほとんど“使えない”システムにしてしまうよりもマシである。そこまでの費用が捻出できないとなれば,システム自体の導入を断念するのも一つの解であろう。

 こういった業務上のコミュニケーション,コラボレーションの今後についてシミュレーションしながら,5月18~19日に東京・池袋で開催する「IPテレフォニー&ケータイ ソリューション2006」「ビジュアル・コミュニケーション2006」に足を運んでほしい。そこでじっくりと製品/サービス,ソリューションを体感,検討してみては。

 事前に,コミュニケーション関連の課題について,相談に乗ってもらえる相談予約システムもある。そのうえで,当日,会場で具体的な打ち合わせもできるシステムである。ぜひご利用いただきたい。