◆今回の注目NEWS◆

◎内閣官房IT担当室に「電子政府推進管理室」新設(日経BPガバメントテクノロジー、4月14日)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060414/235373/

【ニュースの概要】政府は4月10日、内閣官房IT担当室に「電子政府推進管理室」を新設した。 室長は、民間からの起用も検討されていたが、坂篤郎内閣官房副長官補が兼任する。室員10人と外部から招へいした4人の電子政府推進管理補佐官からなる組織で、、人事・給与、調査統計などの府省共通システムについて、最適化を推進していくのが目的。


◆このNEWSのツボ◆

 内閣官房に、府省横断の共通システムについて、システムの最適化等の調整を行うために、電子政府推進管理室が設置されたとのことである。室長を内閣官房副長官補が務め、内閣補佐官や各省庁CIO補佐官をサポート役に配するということは、かなりの「重量級」の組織ができたということである。

 元々、各省庁のシステム化の重複投資を避け、有効なシステムを構築していこうという試みは、2002年に各府省のCIO/CIO補佐官の連絡会議が開始されて以来、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)への取組など、継続的に進められてきた。

 今回の「管理室」の設置が、こうした従来の取り組みと、具体的に「どう違うのか?」は、発表文を読んだだけでは、よく見えてこない。ただ、筆者の霞ヶ関や自治体での経験からすると、若干気になることがある。それは、「システムの共通化、最適化を図るためには、その前提となる様々なルールが、全て明らかになってシステム構築の際に提示されていないと難しい」という点である。

 これだけでは分かりにくいかもしれないので、具体的に人事給与システムについて 例示してみよう。通常、人事給与システムに盛り込まれるべき機能としては、職能給 の金額、残業手当の計算、扶養手当等各種手当ての計算などの諸手当の計算、社会保 険料の計算、税金の計算等々がある。民間企業であれば、こうしたルールは、比較的 透明化されているので、後はそれをシステムに盛り込んでいく、あるいはパッケージ の基本パラメータとして設定していけばよい。ところが、多くの公共機関で、民間の 給与システムを持ち込もうとして、結構なトラブルが発生している。

 公共機関では、「労働組合との長い間の交渉の結果」であるとか、その他、様々な理由をつけて、例えば所属部局ごとに、様々なローカル・ルールが設定されていることが多い。人事給与関連で言えば、「残業時間が実残業時間と違う、あるいは、その計算方法が同じ年度内で変わってくる」「本来、付かないはずの手当が付いている」等々の問題である。実は、こうしたローカル・ルールがシステム構築時に開示されなかったり、後出しでシステム構築者に開示されるのがトラブルの原因であったりする(もっと言えば、大阪市の例が顕著に示したように、開示するとスキャンダルになる場合もある。実際、残業しないのに残業手当が付いたり、革靴手当や背広手当をシステムに盛り込んでください……とは民間のベンダーには言いにくいであろうし……)。

 また、「予算主義」が原則で、年度当初に予算を配り終わると、後は、その枠内で業務を行うことが求められる公共機関の場合には、年度途中では、「金額が変わる」のではなく「ルールの運用を変えて金額の方を合わせる」ということも頻繁に発生する。これでは、システム構築者はたまったものではない。

 いろいろな自治体のシステム担当者が、こういった「後出しで出てくる“実態”」にシステムを合わせるために多大な苦労をしてきている。各府省のシステムを共通化・効率化を進めるという目的は正しいと考えられるが、実際には、システムの要件定義などの前に、こうした「霞ヶ関各府省の暗黙の掟」の共通化、透明化が図れるかどうかが、「電子政府推進管理室」に立ちはだかる大きな問題となってくるように思われる。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

東京大学経済学部卒。通商産業省(現 経済産業省)に22年間勤務した後、2000年7月に同省を退職。同年8月にコンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営コンサルティング、IT戦略コンサルティングまで幅広い領域で活動する。

「ITガバナンス・シンポジウム2006」を開催します
テーマ:ITガバナンスとIT新改革戦略
開催日:2006年5月25日(木) 会場:ホテルニューオータニ (東京・赤坂)
主催:日経BPガバメントテクノロジー 参加料・無料

●主な内容●
基調講演「ITガバナンスとIT新改革戦略~CIO/PMO組織による業務・システム最適化の実現」(内閣府大臣政務官 平井たくや氏)、特別講演「オーストラリア国税庁のIT調達手法(仮題)」(オーストラリア国税庁副長官 グレッグ・ファー氏)ほか ※プログラムは変更になる場合があります。予めご了承下さい。
※中央官庁・地方自治体・独立行政法人以外の方がご登録された場合、受講をお断りする場合がございます。