ジャンル:フォトレタッチ 作者:Spencer Kimball氏ほか
ライセンス:GPL URL: http://www.gimp.org/

 The GIMPは画像の描画や写真の加工に用いるフォトレタッチ・ソフトである。豊富な画像処理機能と,画像処理を自動実行するためのスクリプトを装備する。新版ではユーザー・インタフェース画面が一新されるなどの改良が施された。

 The GIMP(General Image Manipulation Program:以下,GIMP)は画像の加工や描画に適したフォトレタッチ・ソフトだ。米Adobe Systems社の「Adobe Photoshop」などと同じように,多種多様な画像処理が可能であり,Linuxの定番ソフトの一つとして多くのディストリビューションに標準で付属する。

 2007年10月24日に公開されたGIMP 2.4については関連記事を参照(2007年10月25日追記)。

 GIMPの特徴は,大きく分けて2つある。1つは豊富な画像処理機能。もう1つは,画像処理を自動化できるスクリプト機能だ。

豊富な画像処理機能

 GIMPでは,さまざまな「ツール」を使って画像を描画できる。例えば,線を描画する際にペン先を変更できる「ブラシ」,平面を特定なパターンで塗るための「グラデーション」や「パターン」,選択した部分から近似色を選び出して範囲を作る「あいまい選択」,文字を描画できる「文字」,選択した部分の画像をコピーする「スタンプ」などといったツールが用意されている。これらのツールを収めたウインドウが「ツール・ボックス」である。

 画像の色を調整するための機能もそろっている。3原色での色合いの調節,コントラストの調節,ヒストグラムや色カーブを使った色合いの調節などが行える。さらに,基の画像に重ねた透明なシートを利用して画像を加工できるレイヤー機能,画像のマスクを作成するためのアルファ・チャンネル機能なども搭載されている。各レイヤーでは不透明度をパーセント単位で設定できる。これらの機能を使うことで,基の画像に直接手を入れることなく加工できる。

 さらにGIMPには,画像をぼかす,ライトを照らしたような効果を加える,などの処理を施せる多数のフィルタが用意されている。また,ベジェとよばれる曲線を使って線や図形を描画できる「パス機能」も備えている。

スクリプトを利用して処理を自動化

 GIMPは,手動でフィルタをかけるのではなく,画像処理の順番をスクリプトとして記述しておき,処理を自動化するための「Script-Fu」という機能を備える。画像の質感を変えるなど複雑な効果を得る際に便利である。GIMPに用意されている特殊効果にも,Script-Fuで実装されているものがある。具体的な使い方については,後述する。


写真1 最新版の「The GIMP 2.0」
ユーザー・インタフェースのデザインが一新された。

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写真2 ダイアログを集約できるドック
各ダイアログをドラッグ・アンド・ドロップすることにより,一つのウインドウにまとめられるようになった。タブ機能を利用して,ダイアログを切り替えることも可能だ。

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写真3 テキストの入力機能
複数行のテキスト入力が行えるようになった。入力した文字はリアルタイムに画像に反映される。

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写真4 パスの描画形式の設定
パスを描画する線は太さや破線,先端の形状などを設定できる。

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GIMP 2.0の新機能

 The GIMPプロジェクトは2004年3月23日,最新版であるGIMP 2.0を公開した(写真1[表示])。前回の安定版のGIMP 1.2から3年ぶりのバージョンアップとなる。最新版で追加・変更された機能は次の通りだ。

従来版からの強化点

 まず,(1)利用時にデスクトップ上に各種ウインドウやダイアログが散らばってしまう,(2)テキスト入力に制限がある,という従来版の弱点を改良した。

 従来版のGIMPでは,さまざまな画像処理を施していくと,デスクトップ上に小さなウインドウやダイアログが散らばり,画面がごちゃごちゃになりがちだった。これを改善するため,新版ではドックと呼ばれる機能を搭載した。ドックはツール・ボックスなどを1つのウインドウに集約するものだ(写真2[表示])。

 ドックとは反対に,よく使うウインドウを独立させたいこともあるだろう。ダイアログのタイトル(例えば,レイヤーのダイアログならば「レイヤー」という文字の部分)をドラッグ・アンド・ドロップすることで自由に結合したり,切り離したりもできる。さらに,ダイアログではタブ機能を利用できる。ダイアログ上方にあるタブを切り替えることで利用したいダイアログに切り替えられる。

 次に,従来版のGIMPでは,テキスト入力時の文字入力が1行に限られていた。複数行にわたって入力する場合は,1行入力した後に再度テキスト・ツールで入力する場所を指定して作業を続ける必要があった。

 GIMP 2.0では,一度に複数行の文字列の入力が行える(写真3[表示])。同時にインデントや行間隔の設定もできるようになった。また,文字の入力中はリアルタイムに内容が画像上に表示され,文字サイズを指定しやすくなった。さらに,入力したテキストを後ほど説明する「パス化」する機能も加えられた。

 また,従来版の細かい不具合として,パスの描画中にアンドゥできなかった。新版では[Ctrl]キーと[z]キーを同時に押す(以下,[Ctrl]+[z]と記す)ことで,処理前の状態に戻せるようになった。

パス機能やスクリプト機能も強化

 新版ではさらに,パス機能やスクリプト機能が拡張されている。

 パス機能とは,折れ線やベジェ曲線を用いて鉛筆ツールやエアブラシ・ツールを走らせる軌跡を設定しておき,それに沿ってこれらのツールにより描画する機能である。Photoshopでも便利な機能として知られる。具体的には「日経Linux」などのロゴをパス機能を用いてベクトル・データとして作成しておき,後ほどグラデーションなどを施したロゴを作成するといった用途で使える。

 従来版では,作成したパスに沿って線を引くにはブラシのみ使用可能であった。新版ではブラシやパターンに従った線を引けるだけでなく,線の太さや破線の設定,線の先端の形状の設定が行えるようになった(写真4[表示])。作成したパスはWebの標準化団体であるW3Cが策定したSVG(Scalable Vector Graphics)方式で保存できる。

 GIMPに特徴的な機能として画像処理の手順をスクリプトに記述しておき,特殊な効果や画像作成を行えるScript-Fuがある。Script-Fuの機能も拡張された。従来版のScript-Fuでも,PythonやPerlなどといった言語で記述したスクリプトを用いた画像処理が行えた。新版では,GTK+バージョン2.0に対応したPerlモジュールも利用できるようになった。

 新版では,このほか,グリッド線の表示やグリッド線へオブジェクトをスナップする,PNGでアニメーション画像を実現するMNG(Multiple-image Network Graphics)アニメーションで出力する,などの機能が追加された。

改良されたユーザー・インタフェース

 GIMP全体のデザインや操作面も改良された。先に紹介したウインドウを結合したり切り離したりできる機能の追加に加えて,ツール・ボックスのボタンの形状や各メニューの横にアイコンが表示されるなどの見た目も変更された。

 GIMP用のテーマにも対応しており,GIMPのツール・ボックスなどのデザインを変更できる。標準のテーマのほか,ボタンなどを小さくする「Small」テーマが用意されている。

 ちなみに,これらの改良にはグラフィカル・インタフェースを作成するためのライブラリであるGTK+バージョン2.0の機能を活用している。

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