■IT業界の主に営業・マーケティングの方々を対象にした連載の第2回目は、客先での自慢話の方法です。売り込むわけですから、自社の製品やソリューションの良いことばかりを話したいところですが、ひとひねりが必要です。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 顧客への営業訪問。事前情報収集の甲斐もあり、良好な雰囲気で商談がスタートした。今度は自社製品・ソリューションの自慢タイムだ。

 「この製品は数百社の大手企業様にご導入いただいておりまして・・・」
 「当社のソリューションは非常に高い評価をいただいておりまして・・・」
 「当社のSEは優れた技術力を誇ります・・・」

などなど、いいことずくめのアピールにみんな余念がない。その気持ちはよく分かるが、“いい話”というのは聞く方にとってみればインパクトは薄いのだ。

 どこのITベンダーもみな、技術力が高く、性能は安定していて、納期は早いし、価格は適正、SEはとても優秀、と同じセリフを言う。主語が変わっても言っていることはみんな同じに聞こえる。

 どんな映画でも何かの尺度で全米No.1になる、ハリウッド映画の宣伝文句みたいだ。

 かと言って「他社の製品にはないこの機能がついています」、「他社の製品よりこれだけ安いです」と明確な差別化ができるものも少ない。SIソリューションの場合、「うちの方が技術力が高い」なんてなかなか証明しづらい。

 これでは一生懸命自慢しても相手に響かない。そこで、営業現場で効果的に自慢するうまいやり方を伝授しよう。それは“落として上げる”というやり方だ。

マイナス情報からプラス情報へ

 例えば自社の製品はすごいんだよ、と説明したいとき。

営業 「正直申し上げてこの製品を市場に投入した当初は、お客様から多くのバグを指摘されたんです」
「そうですか。(なんだ、ダメじゃん)」
営業 「そこで、その反省のもと課題を徹底的に検証してバージョンアップした結果、現在のような高いシェアを得ることができたんです。」
「ほう、そうですか。(なかなかやるじゃん)」

という具合に、マイナス情報を先に出し、プラスに転じた話をするのだ。

 これには2つの効果がある。1つ目は、マイナス情報を出すことで相手の信頼を得られることだ。 

 ITベンダーはどうもマイナス情報を出したがらない。常にいいことばかり言おうとする。しかし、人はいいことを言う人よりも、悪いことを正直に言ってくれる人の方を信用するものだ。マイナス情報を正直に出すことで、まずは顧客の気持ちをグッと引きつけたい。

進化できる“チカラ”こそが自慢のポイント

 そしてもう1つ、インパクトが大きいのは「マイナス」→「プラス」というストーリーに人はポジティブな印象を持つことだ。

 これは映画やTVのサクセスものが必ず、「デビュー」→「プチ・サクセス」→「挫折」→「特訓」→「ビッグ・サクセス」というプロセスを描いていることで、「いいものほど挫折を経験している」というイメージが人には刷り込まれているからだ。

 別に心理的なイメージを狙っているだけではない。マイナス→プラスというストーリーを語ることで「進化している」という姿を見せられることが重要なのだ。

 “優れている”という評価には、今この瞬間のことではなく、常に進化しているかどうかが問われる。今この瞬間優れているものが、明日も優れているかどうか分からない。特に技術の移り変わりが激しいITサービスはそうだ。

 顧客は、ITベンダーが常にサービスのクオリティを高めようと努力しているか、その姿勢を見ている。今は競合優位性が高いサービスであっても、優位性を将来にわたって維持すべく努力する姿勢が見えなければ、安心してソリューションを託すことができない。

 だから、マイナスからプラスに転じたストーリーを語ることができれば、自社の“進化するチカラ”を強く印象づけられるのだ。

 私もしょっちゅうこのテクニックを使っている。“自ら落として上げる”これこそが最もインパクトの強い自慢話なのだ。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。