Pict2.二つの方式の違いや特徴は?<BR>コネクション型は,通信を始める前にパケットを送る経路を決めます。この経路を論理通信路と呼びます
Pict2.二つの方式の違いや特徴は?<BR>コネクション型は,通信を始める前にパケットを送る経路を決めます。この経路を論理通信路と呼びます
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Pict3.軽量な動作が求められたIP&lt;BR&gt;インターネットで使われているネットワーク層プロトコルのIPは,コネクションレス型のプロトコルです
Pict3.軽量な動作が求められたIP<BR>インターネットで使われているネットワーク層プロトコルのIPは,コネクションレス型のプロトコルです
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信頼性が低いコネクションレス型

 次にコネクション型とコネクションレス型それぞれの特徴を見ていきましょう。

 送信や受信を行うコンピュータから見た場合,両者のもっとも大きな違いは,論理通信路を設定する手順があるかないかです(pict.2[拡大表示])。コネクション型の通信では手順の負荷が大きく,コネクションレス型は小さいと言い換えることもできます。

 ただ,通信手順の負荷が小さいからコネクションレス型が良いとは一概には言えません。通信においてはそれぞれの目的とする機能があって,そのために適しているものを選択することが重要です。

 コネクションレス型は論理通信路の設定や切断がないので,送りたいデータが発生したときに,すばやく転送に取りかかれます。一方で通信の信頼性が低くなるというデメリットがあります。

 というのは,信頼性を保証するには論理通信路が必要だからです。こうした技術としては,誤り制御,順序制御などがありますが,これらはいずれも論理通信路が存在しないと使えません。言い換えるとコネクション型の通信を前提にしています。

 コネクションレス型のパケット通信でも一つ一つのパケットは確かに目的地に到達できます。しかし,それぞれのパケットはお互いに独立しているので,それぞれが目的地に到達するパスは途中の中継装置任せになります。

 そのため,到達までの経路や時間はパケットごとにバラバラになりますから,パケットが到達する順番が送り出した順番と同じになるとは限りません。また,途中で行方不明になったり,壊れることも起こります。また,到達確認の手順がないので,パケットがあて先に無事届いたかどうかを送信元で確認できません。

 一方,コネクション型のパケット通信では,パケットは一つの論理通信路を流れていきます。論理通信路はちょうど,送信元とあて先のコンピュータの間に仮想的にパイプを通すようなものです。

 パケットをパイプで順番に流すわけですから,パケットには前後関係があります。順番を示す番号つけておけば,中継装置や受信側で正しい順番で送られているか確認できます。また,受けたパケットに対する応答確認の手順で,正しくパケットが到達したかを送信元が確かめられます。

IPはコネクションレス型の通信プロトコル

 ネットワーク層の機能として,コネクション型とコネクションレス型のどちらを採用するかはネットワークの目的によって変わります。

 例えば,パケット交換方式の通信が登場したころは,X.25(エックスにじゅうご)プロトコルを使ったコネクション型のネットワーク・サービスが広く普及していました。当時は長距離通信自体の信頼性が低かったので,信頼性の高いコネクション型を必要としたのです。

 1990年代から急速に普及したインターネットでは,ネットワーク層プロトコルとしてIP(internet protocol)が使われています。このIPは,コネクションレス型のプロトコルです(pict.3[拡大表示])。

 IPが開発されたころにはすでに,いろいろな通信事業者によるネットワーク・サービスが提供されていました。IPはこうしたネットワークを相互接続するネットワーク層のプロトコルとして開発されたのです。

 こうした環境では,それぞれのネットワークごとに論理通信路を設定するのはあまり現実的ではありません。通信手順の負荷が大き過ぎるからです。多くの処理を中継装置が担うことになり,負担が大きくなります。

 そこでIPの設計では相互接続性を提供する要(かなめ)であるルーティング(経路の決定)の機能だけをIPに持たせ,そのほかの処理は上位層に任せるように,コネクションレス型で作られました。データの信頼性やきめ細かい通信制御を担う部分は,IPの上位層プロトコルであるTCP(transmission control protocol)が提供しています。


●筆者:水野 忠則(みずの ただのり)氏
静岡大学創造科学技術大学院 大学院長・教授。情報処理学会フェロー,監事。現在の研究分野はモバイル&ユビキタス・コンピューティング,情報ネットワークなど
●筆者:井手口 哲夫(いでぐち てつお)氏
愛知県立大学情報科学部教授。現在の研究分野はLANや広域ネットワークのインターネットワーキング技術,ネットワーク・アーキテクチャ,モバイル・ネットワークなど
●イラストレータ:なかがわ みさこ
日経NETWORK誌掲載のイラストを,創刊号以来担当している。ホームページはhttp://creator-m.com/misako/