いつでもどこでも、多様な通信手段を活用する通信環境

 相手がどこにいても、いつでも、迅速かつ確実にコミュニケーションが取れる。それも、電話や電子メールをはじめ、ボイス・メール、インスタント・メッセージ(IM)、映像通信などさまざまな通信手段を、状況に応じて選択あるいは組み合わせて利用できる。ドキュメントなどを見ながら相談することも可能である。これが「シームレス・コミュニケーション」が目指す環境である。

 人と人のコミュニケーションは、直接会って話し合うのが一番である。声の調子や顔の表情などで細かなニュアンスまでわかる。それに資料などを指差しながら相談できるということも重要である。しかし、実際には、相手と離れていたり、スケジュールを合わせたりするのは大変であるため、直接会うというのが難しい場合が少なくない。電話などの“通信”手段を使うことになる。

 コミュニケーション・ツールは、音声や画像/映像などの複数メディアを活用してリアルさを再現する一方で、電子メールのように“時間差”を便利に使うことも一般化した。電子メールはすぐに相手に伝えられる保証はないが、逆に相手が不在でもメッセージを残せるというメリットがある。

 このような複数のメディア、通信手段を統合的に扱えるものが以前からある(図1)。「ユニファイド・メッセージ・システム」(UMS)である。音声や電子メール、ボイス・メールなどを統合的に利用、管理可能で、状況に応じて通信手段(メディア)を選択して連絡が取れる。シームレス・コミュニケーションは、UMSをさらに進化させたものである。第2世代のUMSともいえる。

図1 いろいろな特性の通信手段を統合的に扱えるユニファイド・メッセージ・システム
図1 いろいろな特性の通信手段を統合的に扱えるユニファイド・メッセージ・システム

プレゼンス情報をもとに通信手段を選択

 シームレス・コミュニケーションは、相手の状態に応じて最適な通信手段を選んで連絡ができる。従来のUMSでも通信手段を選べるが、ユーザー自身で相手の状態を確認し、通信手段を選択するというのが基本であった。シームレス・コミュニケーションでは、この辺の手間を支援する機能が加わっていく。

 たとえば、プレゼンス情報をもとに、システム側が最適な手段を推奨、あるいは選択する機能である。プレゼンス・サーバーやIP-PBXなどバックヤードで動くシステムが連動し、相手の電話番号やメール・アドレス、IDをすべて管理する。ユーザー自身は個々の通信手段ごとにある番号やIDを扱わなくてもよくなり、意識することなく、望む相手に連絡を取れるようになる。

 米シスコシステムズは2006年4月、プレゼンス(在席情報)サーバーを中核に、IP電話やビデオ会議、IM、ボイス・メールのアプリケーションを一元的に扱うシステムの提供を始める。その時々で、相手と確実につながる手段を一目で確認し、素早く情報を伝えられる。「何度電話をかけてもつながらない」といった不便さをなくそうというものである。

 米マイクロソフトは2006年3月から、企業向けのプレゼンス管理サーバーでIMソフトやIP電話を制御するため、世界各国の通信事業者や大手PBXメーカーと次々に提携している。たとえばパソコンのIMソフトから、IP電話のプレゼンス情報を確認できるようにする。これにより、メールやIM、テレビ会議、電話、ボイス・メールなどの手段を統合する。

写真1 米テローが提供するプレゼンス管理アプリケーション
写真1 米テローが提供するプレゼンス管理アプリケーション
相手に情報を送る前に最適なコミュニケーション手段が分かる。
 米ベンチャー企業のテローは、相手がどの通信手段で連絡を取れるかをパソコン画面に表示して、最適な手段を選べるサービスを、大手に先駆けて1月に開始した(写真1)。複数のIMソフトを利用しているユーザーがそれぞれのIDを登録して使い分けられるなど、対応アプリケーションの豊富さで他社の先を行く。

 このほかにも、複数のコミュニケーション手段を一つのアプリケーションから活用できる企業向けのIMやソフトフォンの新製品が相次いでいる。

 一方で、各ツールが、ほかのツールが持つ機能を次々と取り込むという動きがある。IMは単なる文字のチャットにとどまらず、簡易的なビデオ会議や音声通話機能を実装している。SkypeなどのIP電話ソフトも、IMやビデオ会議の機能を吸収。映像コミュニケーションや同報型のコミュニケーションを利用できるようになってきた。アプローチが異なるものの、同じ方向に向かっている。

多様な端末で切れ目なく利用

 シームレス・コミュニケーションでは、利用する端末も重要なポイントである(図2)。パソコンでしか利用できないなどとなると、“いつでもどこでも”が難しくなる。パソコンや携帯電話など、ユーザーがどの端末から使っても、同じ情報を同じように扱えるようにすることが重要である。パソコン、固定電話機、携帯電話機など端末を選ばずに、ほかのユーザーと同じプレゼンス情報の共有やメッセージのやり取りができる。

図2 シームレス・コミュニケーション
図2 シームレス・コミュニケーション
プレゼンス情報などを参考にしながら、多様な通信手段を、いろいろな端末から利用できるようになる。

 さらに、コミュニケーションをシームレスに続けられることも目指している。たとえば、動画メッセージを受け取って社内のパソコンで視聴。途中でそれを停止して外出し、そこで携帯端末を使って続きを再生できるといった具合である。