第3回は,今年の秋にも本放送が始まる予定のもう1つの地上デジタル放送である「デジタルラジオ」のしくみと特徴を解説しよう。

今秋から本放送が始まる

 音声放送やデータ放送を提供する地上デジタルラジオは,2003年10月から東京と大阪で実用化に向けた試験放送が始まっている。この放送は,AM/FM放送事業者などにより,ほかの放送に使われていないVHFの7チャンネルの帯域を使って提供されている。

 ただ,この4月に本放送が始まったワンセグと比べると,あまり一般に認知されていない。その一つの要因は,実用化試験放送しか提供されていないため,受信端末が一般に販売されていないことだろう。こうした状況は,これから徐々に改善してきそうだ。例えば,ピクセラはワンセグ放送(映像サービスのみ対応)と地上デジタルラジオの両サービスに対応した携帯専用端末を開発,今年5月にも発売を予定している。

AM/FMラジオのオプション・サービス

 地上デジタルテレビは,2011年7月にアナログ放送を停波する。これに対して,地上デジタルラジオは,現行のAM/FMラジオを停波することはなく,オプション・サービスとして提供される。

 また 当初の予定では,2011年7月の地上アナログテレビ放送が停波した後に空くVHF帯域を利用して,地上デジタルラジオの本放送を開始する予定(総務省の方針)だった。

当初の予定を前倒し

 しかし,近年の多メディア化の進展に伴い,衛星モバイル放送(2004年10月に開始したモバイル機器向け衛星デジタル放送「モバHO!」)のような事業者が登場するなど,従来の地上ラジオ放送が有していた特性を併せ持つメディアとの競合が強まってきた。さらにこの4月1日には,携帯端末向けワンセグ放送が開局することで,より一層の競合も予想された。

 そこで,地上デジタルラジオの普及の視点から,総務省は2003年10月より東京・大阪で行われているデジタルラジオ放送の実用化試験放送を早期に本放送へ移行することを決めた。また,デジタル時代における地上ラジオ放送の基本的役割,多メディア・デジタル時代の地上ラジオ放送のビジネスモデルなど,発展策や将来像を検討するために,2004年9月には「デジタル時代のラジオ放送の将来像に関する懇談会」が開かれた。

 この懇談会で議論が重ねられた結果,2005年5月に中間答申として報告書がまとまった。

 この報告書では,本放送の開始時期を大幅に前倒し,2006年度中に東京と大阪,2008年に札幌,仙台,静岡,名古屋,広島,福岡で本放送を始めることが明記された。また全国放送を主とするマルチプレックス事業者の設立も記された。さらに,2011年7月以前を「先行普及時期」,以降を「本格展開時期」として位置づけた。

 この2011年以降の方針には,全国放送サービスとして最大2つの民間事業者,地域放送サービスとしてNHKと最大2つの民間事業者の新規参入を認め,空く予定のVHF 4~12チャンネルを確保するために2008年までにチャンネル・プランを策定することになった。

 また,既存アナログラジオ放送(AM/FM)のサイマル放送枠の確保についても一定の規律を設けることが報告された。

専門の放送事業者と,普及のためのフォーラムが設立


図1 マルチプレックスジャパンと放送事業者およびデジタルラジオニュービジネスフォーラムとの関係
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 この報告を受けて2005年7月26日,東京の民放ラジオ局5社(TBS R&C,文化放送,ニッポン放送,エフエム東京,J-WAVE)は2006年秋の開局を目標に,全国で地上デジタルラジオ放送を提供するマルチプレックス事業会社マルチプレックスジャパン(現時点では事業企画会社)の設立を発表した。

 さらに,2005年6月には地上デジタルラジオの放送開始を加速させるために,放送局,受信機メーカー,コンテンツ関連会社,通信事業者などが参加して,デジタルラジオニュービジネスフォーラムが設立された。このフォーラムは,マルチプレックスジャパンと連携し,携帯電話,車載機,パソコン,およびPDA向けの機器開発と,サービスモデルの開拓,および啓蒙活動を目的とする(図1)。

 そして,フォーラム設立開始から1年目にあたる第1期に,サービスモデル(音楽ダウンロードサービスや車載向け番組など)を,今年度は試験放送の電波を使った実証実験を行い,サービス開始を加速させることにしている。

 なお,サービスについての詳しい説明は,次回の「デジタルラジオのサービスイメージ」で解説する(2006年5月半ばごろ公開予定)。