Bruce Schneier Counterpane Internet Security
「CRYPTO-GRAM April 15, 2006」より

 アラスカ州にあるジリンハム(Dillingham)は,おそらく米国で最も監視の目が行き届いた町だろう。2400人の住人に対し,80台の監視カメラがある。つまり,30人当たり1台のカメラが設置されていることになる。

 この監視カメラは,当然町が購入したのだろう。というのも,米国土安全保障省から本土防衛用に受け取った助成金20万2000ドルの使い道を,ほかに何も思いつかなかったからだ(こうした助成金の提供先を,実際に脅威が存在するかどうかではなく,政策的な優先課題にもとづいて決定することが問題だ)。

 そうして町は助成金を受け取り,監視カメラに使った。そして今度は,この支出を正当化する必要に迫られている。ジリンハム警察署の署長が支出に価値があることを示すために使った以下の話は,「映画のストーリーにあるような脅威」だ。

 署長は腕を右に伸ばして「ここからロシアまで約800マイル(約1300km)だ」と述べた。

 「シアトルは約1200マイル(約2000km)離れている」と語り,後ろを指さした。

 「私の計算が正しければ,シアトルよりロシアの方が近いことになる」

 「ここでだ,誰でもいいから悪人がロシアで核兵器を手に入れたとしよう。ロシアでは核兵器の警備が甘いらしい。悪人は核兵器をコンテナに入れ,犯罪組織の構成員--多分マフィアを手下に雇い,不定期貨物船で輸送を手配する。そしてコンテナは,小型の輸送船に積み込まれる。小型船はジリンハムの港にその荷を降ろす。シアトルへ送るための偽造書類の準備は万端だ。そしてコンテナは,輸送船に乗せられる」

 「10日後,輸送船はシアトル港に入る」

 話の効果を高めるため,署長は一呼吸置いた。

 「プーーーーー」といって,署長は両手を花のように広げる。

 一つ目の問題は,この映画のストーリーにあるような脅威が,単に馬鹿げているということ。二つ目の問題は,最初から読み返さないと気付きにくいことだが,ジリンハムにある80台のカメラは,署長が妄想する攻撃を阻止できないということだ。

 我々は例外なくセキュリティの消費者である。金を出す見返りとして,セキュリティを期待する。ジリンハムの監視カメラは,金の無駄遣いだ。米国の納税者の一人として,こうしたお粗末な行為を知るとうんざりする。

http://www.latimes.com/news/nationworld/nation/...

Copyright (c) 2006 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「80 Cameras for 2,400 People」
「CRYPTO-GRAM April 15, 2006」
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。