図1 主なホーリー・ファイバの種類<br>全反射によって光を導波する「空孔アシスト・ファイバ」「フォトニック結晶ファイバ」,ブラッグ反射の原理で導波する「フォトニック・バンドギャップ・ファイバ」の3種類がある。いずれもコアの周囲に空孔ホールを配置し,利用可能波長域を拡大したり,曲げに強い特性を実現する。
図1 主なホーリー・ファイバの種類<br>全反射によって光を導波する「空孔アシスト・ファイバ」「フォトニック結晶ファイバ」,ブラッグ反射の原理で導波する「フォトニック・バンドギャップ・ファイバ」の3種類がある。いずれもコアの周囲に空孔ホールを配置し,利用可能波長域を拡大したり,曲げに強い特性を実現する。
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図2 空孔アシスト・ファイバの特徴&lt;br&gt;単一モード光ファイバと比較した場合,収納ケースの面積を1/36程度まで小型化できる。また,伸縮自在の特性を用いて,より柔軟な光ファイバの利用も可能になる。
図2 空孔アシスト・ファイバの特徴<br>単一モード光ファイバと比較した場合,収納ケースの面積を1/36程度まで小型化できる。また,伸縮自在の特性を用いて,より柔軟な光ファイバの利用も可能になる。
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図3 大容量伝送が可能になるフォトニック結晶ファイバ&lt;br&gt;単一モード光ファイバと比べて,単一モード動作する波長域が飛躍的に拡大する。波長多重技術と組み合わせることで,大容量の高速伝送を1本の光ファイバだけで実現可能になる。
図3 大容量伝送が可能になるフォトニック結晶ファイバ<br>単一モード光ファイバと比べて,単一モード動作する波長域が飛躍的に拡大する。波長多重技術と組み合わせることで,大容量の高速伝送を1本の光ファイバだけで実現可能になる。
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前回までCWDMやWDM-PONなど,波長多重を利用する新しい光アクセス・システムを解説しました。今回は,曲げに強い,これまで以上に高速伝送に向くなど,様々な優れた特性を持つ次世代の光ファイバ「ホーリー・ファイバ」を紹介します。

 現在,コア/アクセス・ネットワークで広く使用されている単一モード光ファイバ*は,添加剤で屈折率をわずかに高くしたコアと,コアを取り巻くクラッドで構成しています。全反射によって光をコア部分に閉じ込めることで信号を伝える仕組みです。ただし曲げに弱く,取り扱いに注意が必要でした。

 今回紹介するホーリー・ファイバは,こうした弱点を解消し,優れた特性を持つ次世代のファイバとして注目を集めています。

 ホーリー・ファイバは主に3タイプあります(図1[拡大表示])。全反射を用いる「空孔アシスト・ファイバ」と「フォトニック結晶ファイバ」,そしてブラッグ反射*を用いて導波する「フォトニック・バンドギャップ・ファイバ」です。このうちフォトニック・バンドギャップ・ファイバは,透過損失*が大きく実用化にはまだ時間がかかると見られるため,今回は触れません。

曲げ損失の小さな空孔アシスト・ファイバ

 空孔アシスト・ファイバは,曲げに強く,取り扱いやすい点が最大の特徴です。

 構造は単一モード光ファイバと同様ですが,クラッドの部分に空孔を設けています。空孔の中身は空気です。空気の屈折率は石英系ガラスに比べ十分小さく,漏れそうになった光を逃がさない反射材の働きをします。

 ちなみに単一モード光ファイバのコアとクラッドの比屈折率差は,0.3%程度と極めてわずか。曲げ半径が10ミリメートル以下になると光はコアからクラッドに向かって漏れ出てしまうため,この曲がった部分より先に伝わりません。一方の空孔アシスト・ファイバでは,小さな曲げ半径でも光が漏れ出さず,曲げ損失が小さくなるのです。

 曲げ損失が小さいという特徴は,配線に美観が求められたり,小さなスペースにファイバを収容したい場合などに有利です(図2[拡大表示])。例えば,光ファイバを収納するスペースを1~2センチメートル角程度までと従来の数十分の一に小型化したり,長さを十数倍変化できる伸び縮み可能な光コードへの応用などが考えられています。

高速伝送を実現するフォトニック結晶ファイバ

 一方のフォトニック結晶ファイバは,より大容量の情報を1本の光ファイバで伝えられる点が最大の特徴です。

 ファイバの構造は,添加剤を用いるコアがなく,石英系ガラスに多数の空孔を規則的に配列。空孔に取り囲まれたガラスの領域(コア)に光を閉じ込めることで導波します。

 この閉じ込めの強さが,波長によって変化することを利用すると,高速伝送に必要な単一モード動作する波長域を大幅に拡大できます(図3[拡大表示])。さらに,空孔の大きさや間隔などを適切に選ぶことで,波長分散特性を柔軟に制御可能です。これによって,波長多重伝送に利用可能な波長域も大きく確保できます。また,石英系ガラスをそのままコアに使うことから,添加剤による吸収や散乱損失の影響を受けずに済みます。

 フォトニック結晶ファイバの進展に伴って,これを用いた波長多重伝送実験や非線形伝送実験などが活発に行われています。最近では,長さ約100キロメートルのフォトニック結晶ファイバの発表がありました。近い将来,わずか1本のフォトニック結晶ファイバが,多数本の単一モード光ファイバから成る光ケーブルを置き換えるかもしれません。

 このようにホーリー・ファイバは,ユーザーに身近なホーム/アクセス・ネットワークから,ブロードバンド通信を縁の下で支えるコア・ネットワークまで,幅広い利用が期待されています。

 次回以降は,コア・ネットワークにおける光化の最新動向を紹介します。


萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 所長
灰原 正 NTTアクセスサービスシステム研究所 アクセスメディアプロジェクト プロジェクトマネージャ
三川 泉 NTTアクセスサービスシステム研究所 アクセスメディアプロジェクト 主幹研究員