トヨタ流改善で1日10万件こなす

 取引先各社の要望に応えながら1日10万件という膨大な注文をこなすには、人海戦術だけでは不可能だ。下支えしているのが情報システムとトヨタ流の改善活動である。1979年のコンピュータの導入を皮切りに、86年にはバーコードを利用した生産管理システムを稼働するなど早くから情報システムを活用してきた。現在65%の注文はEDI(電子データ交換)経由で届き、倉庫へ出荷指示するまで自動化する仕組みを構築している。

 さらに、2002年からYPS(ヤハタ・プロダクション・システム)と呼ぶトヨタ生産方式にならった改善活動に取り組んでいる。YPSで取り組んでいるのは、倉庫内における作業の標準化である。作業ごとに標準時間や手順を決めることで、作業効率の向上を目指している。

 例えば、出荷作業は1回当たりの作業時間を1回当たり9分、1時間に6回と決めている。まず出荷担当者は、出荷用の段ボール1箱に梱包する出荷指示用紙を3枚とる。用紙は最も効率の良い出庫順番に並び替えて出力している。「10-1」といったように通路や収納棚に番号が振られている。1件ごとにどこにあるのか番地が書いてある。それを頼りに担当者は梱包していく。出荷棚は、一方通行で出荷担当者同士がぶつかることなく動線が最適化されている。

 1件ごとに人手でやっていては出荷担当者が何人いても足りない。店別に注文する取引先分は、50店分まとめて出荷担当者に出庫させて、自動仕分け機で振り分けて梱包する体制にしている。仕分けするプログラムを変更することで東急ハンズのような要望にも応えられるようになった。

電子はかりを活用して1本単位で出荷

 ホームセンター向けだけでなく、組み立てメーカー向けでも取引先の要望を反映して改善を続けている。メーカーは、ねじが100~200個入った箱単位ではなく1524本といったように1本単位で欲しがる。ホームセンター向けのような箱単位と同じ業務プロセスでは最適化できない。「1本でも数え間違えれば誤出荷となってしまう」(商品企画管理の正美執行役員)ため、小さいねじの出荷といった細かい作業でも確実にできる方法が必要だった。

 そこで出荷作業用のカートに、PDA(携帯情報端末)と連動した電子はかりを付けた。無線LAN経由で取得した出荷指示情報を電子はかりに送信して正確に計れる体制を整えた。出荷対象の箱に付いたバーコードを読み取り、電子はかりに表示された数量をはかりに乗せる。あらかじめ1個当たりの重量は登録してある。

 加えて、メーカーが注文しやすいように顧客が自社で利用している部品番号で注文できるようにしている。EDI経由で発注データが届くと八幡ねじの商品コードにサーバーが自動変換する仕組み。商品コードを気にすることなく注文できる。

 さらなる誤出荷を減らすことと顧客の利便性の向上を目指して、商品カタログと小袋にQRコードを印刷した。返品のうち、顧客の都合によるものが7割を超える。購入時に用途や材質を十分に確認しなかったことが原因と考えられる。そこで、店頭などでQRコードを携帯電話を使って読み込ませて、材質など詳細な情報を八幡ねじのウェブサイトで購入前に確認できるようになる。ホームセンターからすれば、顧客が自分で調べてもらえるようになり接客の効率化も図れる。誤出荷を減らしながら顧客の要望をかなえていく——。誤出荷ゼロを目指して八幡ねじの挑戦は続く。


遠回りしてでも徹底的にやることにこだわる


鈴木建吾(すずき けんご) 社長
1947年名古屋市生まれ。66年横浜国立大学卒業 同年4月富士通入社。71年八幡ねじ入社。87年代表取締役社長に就任。現在に至る

 これまで物流と製品における品質管理にこだわって取り組んできた。

 物流は品質とコストにこだわっている。ねじといった細かい製品の商売をやっていると誤出荷はつきもの。何とかして減らしたいと考えシステム化し、コンピュータに手(電子はかりや自動倉庫など)と目(バーコード)を持たせた。システム化することで、低コストでセンターを運営するノウハウもできてきた。

 ある程度システム化してそれなりのサービスをするという選択肢もある。だが、それはどの企業でもできることであり、価格競争に巻き込まれてしまった時点で終わってしまう。一番になるには顧客からの要望に対してきちんと解決策を示していく。だからこそ様々な改善に取り組んできた。

 海外生産でも品質にこだわっている。輸入品が出回り始めた当時、品質の良いものなのか悪いものなのか分からなかった。そこで、品質が保証できるように、タイと中国に工場を建設してISO9000も取得した。遠回りするかもしれないが、八幡ねじのブランドが付いたものは品質的に問題ないものにしたい。

 今後は、タイから中国、中国からタイへ輸出入する世界的なSCM(サプライチェーン・マネジメント)を目指す。これが終わると、システム化はひとまず一段落する。(談)